続・VUCA時代の小売と消費のカタチ 第1回:「消費の現場」を応援するソーシャルアクションに学ぶ、消費者行動の変化とビジョンの重要性

2020/10/14 11:30
    堤 藤成  株式会社フェズ クリエイティブ・ディレクター
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    TMJP2020プロジェクトの全体像

    TMJP2020プロジェクトの全体像

    安全な消費を実現するために消費の現場でどう行動していくべきかを以下の5つのステップを通じて説明してゆきたい。

    1:消費の原点に立ちかえり、自社のビジョンを「みがく」こと
    2:生産性を高めるスキルと自助成長マインドセットを「学ぶ」こと
    3:消費の現場で働く一人一人が内省し内発的動機を「見つめる」こと
    4:異業種へ越境し、共にイノベーションを起こす仲間を「見つける」こと
    5:新時代の生活様式を目指すべき未来として社会に発信し「願う」こと

    1:消費の原点に立ちかえり、自社のビジョンを「みがく」こと

    もともと当プロジェクトは消費の現場で危機に立たされたお店を応援するために「安全な消費」を啓蒙するポスターを貼るプロジェクトとして始まった。実際にポスターを制作し、小売店や飲食店に持っていくと様々なフィードバックをもらった。例えば「ポスターもありがたいけれど、実はこのご時世そもそもどんなメッセージをSNSで発信したら良いかわからない」「自分たちの業界だけでは打開策がない。他の業界が今どんな安全な消費のための工夫をしているのか知りたい」など生の声を聞くことで、より本質的な課題が見えてきた。つまりこのデザインアクションはポスターを貼ることが目的ではなく、ポスターというコミュニケーションツールを通じて、消費の現場の声が集まり、ミッションを磨きあげるための土台として機能したのだった。

    TMJP_Designチームが制作したロゴ、ポスター、フライヤー、グッズ、動画
    TMJP_Designチームが制作したロゴ、ポスター、フライヤー、グッズ、動画

    上記のデザインプロジェクトの学びを踏まえ、最初にシェアしたいのは、電通エグゼクティブ・クリエイティブディレクターの並河 進氏に教わった「困難な状況を『逆に』と捉えると、新しい視点やアイデアが生まれてくる」という視点だ。コロナで人と会えなくなったと考えるか、逆にオンラインで時間場所を超えて会うことができるようになったと考えるかで、その後の可能性は変わる。

    実際、今回のプロジェクトは東京だけでなく大阪、京都、長野、石川などの地方を始め、アメリカ、オランダなどからメンバーが参加してプロジェクトを進めてきた。またコロナ禍の新しい生活様式から次の消費の形が生み出せるのではないか?と前向きに向き合うこともとても重要だ。また電通のコピーライターの阿部 広太郎氏からは「そもそも『安全な消費』の定義について深く考えてみては?」という問いをもらった。そこで早速、消費(Consume:コンシューム)の語源について調べてみた。Consumeとは、Con(=完全に)+ sume(=取る)であり、コンソメスープの「コンソメ」と同じ語源を持つ。つまりコンソメスープとは、野菜のうま味を「完全に取り尽くした」スープだと言う。こうした視点で考えると消費は無駄なく価値が循環することこそ重要なのだという視点が浮かび上がってくる。大量生産・大量消費は無駄が多く、きちんと価値が循環することサーキュラーエコノミー的な経済概念こそが大事だということに気付かされた。このように、デザインやポスター作成する過程で、目指すべきビジョンは磨かれていくことを経験した。

    また同じく、ビジョンを固めていくという視点では、日本の工場発アパレルブランドを手がけるファクトリエ代表の山田敏夫氏から「経済をつくるのは、参加人数よりも想いの量。他人との比較でなく自身の「あり方」から始めよう」というアドバイスも頂いた。

    今回の消費の現場を応援するソーシャルアクションを通じて学んだことは、全てはビジョンから始まるということだ。小売業界も日々の苦境に立たされると、どうしてもビジョンドリブンではなく、ただ目の前の作業に追われてしまう。それでは、どうしても現場の指揮が下がってしまう。ある意味、コロナをきっかけに再編成されるべき時だからこそ、もう一度小売業界の本質に立ち返り、やるべきことをきちんとやり抜くことが大事になっていくのだろう。

    次回:「消費の現場」を応援するソーシャルアクションに学ぶ、消費の現場における対話の3つのカタチ

    堤 藤成
    株式会社フェズ クリエイティブ・ディレクター/PR/コーチ

    新卒で電通に入社し、コピーライター、デジタルプランナーとして、様々な小売・メーカーの店頭プロモーションやブランディング、人工知能コピーライタープロジェクトなどの新規事業等を担当。その後マレーシアのELM Graduate Schoolにて、MBA(経営学修士)取得。現在は『「消費」そして「地域」を元気にする。』をミッションに小売業界のデジタル革新を担う株式会社フェズに転職し、クリエイティブ・ディレクションと広報に従事。オランダ在住のリモートワーカーとして、EU圏からアジア圏まで、海外リテイルのトレンドについてもリサーチを進めている。

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