店内に水族館をつくる!? 水産市場を運営する異色のスーパー・きむらの差別化戦略!

ダイヤモンド・チェーンストア編集部
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香川県と岡山県で食品スーパーを19店舗展開するきむら(香川県)。得意とする鮮魚を筆頭に「生鮮強化」を前面に打ち出した店づくりのほか、水産センターや地方市場の運営を行うなど、独自のビジネスモデルで成長を続けるローカルスーパーマーケット(SM)だ。大手やリージョナルチェーンによる合従連衡の動きが加速し、ボーダレスな競争が激化するなか、ローカルSMはどのようにして激戦を生き抜いていくべきなのか。木村宏雄社長に聞いた。

聞き手・構成=雪元史章(本誌)

競争激化とポイントカードが業績に影響

きむら代表取締役社長 木村宏雄
きむら代表取締役社長
木村宏雄(きむら・ひろお)1947年生まれ。 宏雄
専修大学経済学部卒業後、大手土木会社を経て丸十木村商店(現 きむら)に入社。2002年より現職。

──商勢圏の香川県と岡山県は、全国的に見てもボーダレスな競争が熾烈なエリアです。足元の経営環境についてどう見ていますか。

木村 明らかに過当競争と言える状態です。とくに、マルナカ(香川県/平尾健一社長)さんやハローズ(岡山県/佐藤利行社長)さん、大黒天物産(岡山県/大賀昭司社長)さんは精力的に新規出店や改装を行っていて勢いを感じます。こうしたSMやディスカウントストア(DS)に加え、食品を扱うドラッグストア(DgS)の勢力も拡大しており、まさに乱戦の様相を呈しています。

──業績面への影響はいかがですか。

木村 やはりある程度の影響は受けていて、売上の推移を見ても前年と比較すると落ち込んでいる状況です。
ただ、不調の要因としてはもう1つ、ポイントカードを導入していなかったこともあると考えています。競合他社が揃って導入しているなか、われわれは少し出遅れていました。
 香川県の消費者は“ポイント好き”なところがあって、「他社の店舗でポイント還元セールを行っていたらそこで買物する」という従業員もいるほどです。さすがに危機感を覚えたので、7月から自社のポイントプログラムを開始しました。これによって新規顧客獲得やリピーターの創出を図り、売上のV字回復につなげていきたいと考えています。

──業種業態を超えた競争が激しさを増すなかで、どのようにして差別化を図っていきますか。

木村 もちろん、これだけ競争が厳しいなかではある程度価格も追求せざるを得ません。しかし、DSやDgSと価格で真っ向から勝負しても、太刀打ちできないのは明らかです。ではどうすべきかというと、「生鮮特化型SM」を標榜し、生鮮食品で差別化を図るというのが、われわれのような中小SMが生き残るための道だと思います。

 われわれは子会社を通じて、香川県内で水産市場を、徳島県内でも鮮魚と青果を扱う卸売市場を運営しています。そこを介して、新鮮な魚や野菜を店に直送できることは大きな強みとなっています。鮮度の高さはもちろん、直接仕入れのメリットを生かして、生鮮については競合に引けを取らない価格競争力を出すことができます。

最大の差別化装置は鮮魚「店内に水族館をつくる」

──生鮮の中では、とくに鮮魚の販売に力を入れていますね。そのねらいは何でしょうか。

木村 生鮮3部門の中でも鮮魚は収益化が難しい部門です。大手SMでも手こずっているこの部門を強みや特色とすることで、同じ生鮮特化のSMの中でもさらに差別化を図る、という考え方です。

 売場づくりについては、「店内に水族館をつくる」という考え方で進めています。まるで水族館のような、他社では決して見られない圧倒的な数の魚種を揃えて、「見る楽しさ」「選ぶ楽しさ」を提供する。そして、お客さまとコミュニケーションをとりながら、それぞれの魚の調理方法やおいしい食べ方を提案する、というのがめざす方向性です。

 同業他社では人手不足の問題もあり、鮮魚のアウトパック比率が徐々に高まっているように見えます。その点、われわれは直営市場から仕入れた新鮮な魚を、“職人”とも言えるような熟練した技術を持つ従業員が店内でさばく。これは他社にはなかなか真似できない、きむらならではの強みだと思います。

──18年3月には高松市内に直営の水産加工施設「瀬戸内水産加工センター」も稼働しました。

18年に稼働を開始した「瀬戸内水産加工センター」。きむらの店舗のみならず、同業他社や給食業者などに向けて水産加工品を製造している

木村 予想以上の稼働状況で、今年6月には損益分岐点に乗せることができました。年間売上はおよそ13億円くらいですが、できるだけ早い時期に月間2億円、年間で24億円の売上をセンター単独であげたいと考えています。おそらく2年経たないうちにこの目標は達成できるでしょう。

 センターでは各店舗向けに切り身や魚総菜などを加工・製造しているほか、外部の企業からの委託を受けた商品の製造も行っています。出荷先は中四国だけでなく、九州、沖縄、関西など多岐にわたっています。詳しくはお話しできませんが、大手SMにも切り身やボイルなどを出荷しています。

 こうした外販の売上は今はまだ4~5億円程度ですが、引き合いも多く、今後このカテゴリーの売上は一気に伸びていくと予想しています。

──一方で、近年需要が高まっている総菜についてはどのような方針で取り組んでいますか。

木村 当社でも、総菜部門の売上高は前年比で約130%となるなど大きな伸びを示しています。ただし、総菜をメーンに強化するかといえば、そうではありません。たしかに総菜についてはこれまでいろいろと試行錯誤してきたのですが、今は製造効率を重視する戦略をとっています。商品企画は基本的に本部が一括して行い、素材の加工や製造は総菜専用のプロセスセンターを活用して、店舗での作業をできるだけ簡素化するという方針です。現在、インストア比率は3割程度で、揚げ物など出来たてが訴求ポイントとなるような商品のみ店内調理しています。

 そもそも、われわれのような中小SMの場合、総菜を圧倒的な差別化装置とするのはなかなか難しいところがあります。大手SMやコンビニエンスストア(CVS)が日々研究を重ねている部門ですし、そこをメーンの土俵とするのは得策ではないと考えています。となると、やはり生鮮が大手と渡り合える唯一の領域なのです。そのなかでも鮮魚を“極める”ということが、われわれのビジネスモデルの根幹です。

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