「デジタル化と小売業の未来」#5 “EC大国”の中国でリアル店舗の出店ブームが起こる理由

望月 智之 (株式会社いつも 取締役副社長)
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出店ブームの背景にある“体験価値”の重要性

 たとえば、中国雑貨大手の名創優品産業は、リアル店舗の「名創優品」を年間で600店舗、わずか5年で世界中に3200店舗以上をオープンしました(同社公式サイトより)。

 普通に考えると、これだけECが進んでいる中国で実店舗の出店は意味がないのではないかと思われがちですが、そんな中国だからこそ店舗での体験価値が重視されているのです。消費者は来店前にあらかじめインターネットやSNSなどで商品情報を調べ、決済手段はキャッシュレス化が進むなど、買物を行う際の「店舗での買物プロセス」はどんどん省略可されています。買物行動の無駄を省いたぶん、実店舗での体験価値に重きを置くようになり、それが中国での出店ブームにつながっています。

買物プロセスにおいて、「体験価値」の重要性は高まっている
買物プロセスにおいて、「体験価値」の重要性は高まっている

 実際に商品を見る・使う・触るといった体験のほか、中国ではSNSを活用したライブ配信を行っている店舗も多く、「情報をシェアする体験そのもの」を楽しむ傾向もみられています。実店舗があることで、デジタルだけではできない体験が提供可能なのです。

 このような状況の背景として、とくに中国のECは競合他社との差別化が難しくなっており、ウェブでの顧客獲得競争が極端に加熱していることが挙げられます。そのため、高騰するウェブでの顧客獲得コストに投資するより、いったん実店舗に投資して顧客を獲得するほうが効率がよくなっているのです。実際、消費者は購入しかできないECよりも、商品に触れたり試したりできるリアル店舗に再び価値を感じる現象が起き始めています。

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記事執筆者

望月 智之 / 株式会社いつも 取締役副社長
1977年生まれ。株式会社いつも 取締役副社長。東証1部の経営コンサルティング会社を経て、株式会社いつもを共同創業。同社はD2C・ECコンサルティング会社として、数多くのメーカー企業にデジタルマーケティング支援を提供している。自らはデジタル先進国である米国・中国を定期的に訪れ、最前線の情報を収集。デジタル消費トレンドの専門家として、消費財・ファッション・食品・化粧品のライフスタイル領域を中心に、デジタルシフトやEコマース戦略などのコンサルティングを手掛ける。ニッポン放送でナビゲーターをつとめる「望月智之 イノベーターズ・クロス」他、「J-WAVE」「東洋経済オンライン」等メディアへの出演・寄稿やセミナー登壇など多数。

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