U.S.M.Hのデジタルブランド「ignica」の施策から小売企業が学ぶべきこと

山中 理惠 (Rokt 日本代表)
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自社開発技術を業界他社へ積極外販

 U.S.M.H 2211月からセルフレジカート「ScanGo」で利用できるプリペイド式電子マネー「ignica money」の他社向けの提供(外販)を開始しました。もともと自社向けに開発したDXソリューションを他社向けにサービス展開しているのは理由があります。

 昨今では人口減少や単身世帯数の増加、そして狭い地域への複数店舗の出店により、1店舗あたりの集客力が下がっています。また、コロナ禍以降の世界情勢の変化が著しく、22年後半からはエネルギーコストの高騰や円安、鳥インフルエンザの蔓延などを背景に、生活物資が急激なインフレ基調へと傾いてしまいました。

 これらを要因として競争が激化し、ビジネスがより難しくなった今、自社で蓄積したノウハウを他社に提供するビジネスを行うことで、U.S.M.H は次の時代を担う新しいビジネスの足がかりを模索しているのです。同時に、同社は売上至上主義から生活者中心主義へと転換する要として、DXを位置づけているとも言えます。

 それはつまり、自社DX施策の外販は、顧客体験を最大化し、お客さまに正しいメッセージを届ける目的もあるということです。リテールメディア化が進み、オンライン・オフラインのあらゆる顧客接点が「メディア」になりつつある昨今、お客さまにレレバンシー(広告の特定ターゲットに対する興味・関心の関連性)の低い案内や広告を出すわけにはいきません。

 レレバンシーを高めるためにはお客さまが何を求め、どんな商品・情報を欲しているのかを的確に捉えて間違った案内や広告を出さないことが重要になります。すなわち自社にとどまらない多くの顧客行動データを収集・分析して、顧客体験を最大化する必要があるのです。

U.S.M.Hが手掛けるDXの今後の課題

 今後はこうしたサービスにユーザーがついてくるのかを検証するフェーズに入っていきます。U.S.M.Hの関係者によれば、動線のよい店舗ほどScanGoの利用率が高く、動線設計がうまくできていない店舗では利用率が低いというデータが出ているそうです。

 また、カスミ(茨城県)などの郊外型店舗ではGPSによりScanGoの利用店が自動的に設定されますが、マルエツ(東京都)などの都市型店舗では入店した際に手動でQRコードをスキャンし、利用設定をする必要があります。こうした細かな動線設計の差は、セルフレジカートの利用率にも影響するでしょう。

 U.S.M.Hをはじめ国内小売業界の多くのDXはまだ導入期や成長期のフェーズで、これから大きく躍進していくでしょう。デジタルで補完できる分野は積極的にデジタル投資を進め、その結果として生まれる社内の余剰リソースは、お客さまへのサービスの拡充にあてるのも有効です。デジタル投資は、求めるサービス水準が非常に高い日本のお客さまへの「おもてなし」につなげるための投資と言い換えることもできるのです。

 

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記事執筆者

山中 理惠 / Rokt 日本代表
グローバルITベンダー、大手コンサルティングファームを経て、複数のスタートアップ企業のGTMやマーケティング戦略に携わる。その後、ITからいわゆるDXにフォーカスを絞り、デジタルマーケティングの初期からSEMやソーシャルメディアの拡大に関わる。2018年から、Rokt(ロクト)の日本代表として国内市場立ち上げと拡大を担う。

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