U.S.M.Hがデジタルブランド「ignica」で仕掛ける顧客体験の一大改革

山中 理惠 (Rokt 日本代表)
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食品スーパー3社を擁し全国に計530店舗を構えるユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス(東京都/藤田元宏社長:以下、U.S.M.H)は、2020年にデジタルブランド「ignica(イグニカ)」を立ち上げ、店頭のデジタル・トランスフォーメーション(DX)や顧客体験の改革に取り組んでいます。そのDX戦略を見ていると、小売業界の「顧客体験の向上を図るための戦い」が垣間見えてきます。今回は、イグニカのサービスをご紹介しながら小売DXの可能性について前半と後半に分けてお伝えします。

RaaS戦略の要「ignica」

 昨今、国内外の小売企業によるDX合戦はとどまるところを知りません。先日、NRF(全米小売協会が主催する展示会)に参加した折、ニューヨーク近郊の食品スーパーを10店舗ほど視察したところ、ほとんどの店舗がセルフレジによる会計をメインに据えていました。

 デジタル大国・米国の小売企業が進める店舗のデジタル化やOMO施策の背景には、土地活用が容易でデジタル化のメリットが得やすいといった米国ならではの特性が強く関係しています。

 一方、日本の場合は店舗ごとに物流がきめ細かく最適化されており、デジタルやオンラインにそのまま活用するのは難しいといった現状があります。日本で大掛かりなデジタル施策を実施するには物流やフルフィルメントの中身を改めて検討する必要があるため、コスト的なメリットを出しにくくなっているのです。そのため、小売企業がデジタル化に際して求める目標は、コスト削減以上に顧客体験が強調されているように思われます。

 顧客体験の差別化の一例に、U.S.M.HDX施策があります。20年以降、U.S.M.Hはネットスーパーからセルフレジカート、デジタルサイネージ、BOPIS(オンライン注文・購入、店頭受取サービス)、BIツールの提供まで、全方位的な施策を繰り出してきました。こうしたデジタル戦略を推進しているのが、同社のデジタルブランド「イグニカ」です。イグニカはRetail4.0(※)、OMOの実現をめざしています。私たちRoktもイグニカのネットスーパー「Online Delivery」でAIを活用し、新ブランドの紹介や収益化をお手伝いしています。

※Retail4.0:デジタル技術の導入によってDXを推進させたリテールの次世代を指す。1900年代初めにセルフサービス式が導入されたリテールを「Retail 1.0」とし、ショッピング・センターが普及した「Retail 2.0」、1990年代半ば以降のECの台頭を「Retail 3.0」、それに継ぐ動向として注目されている。

 イグニカはネットスーパー1つとっても、広めのエリアで複数店舗の注文を取りまとめ、ドライバーとマッチングさせて配送するなど、ロジスティクスそのものをオンラインに最適なかたちに設計し直しています。日本の人口動態、顧客の行動に即した最適なロジスティクスをゼロから考えるなど、ゼロベースで「顧客体験」を考え直していくことが今後の小売業の戦略として重要なのではないでしょうか。

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記事執筆者

山中 理惠 / Rokt 日本代表
グローバルITベンダー、大手コンサルティングファームを経て、複数のスタートアップ企業のGTMやマーケティング戦略に携わる。その後、ITからいわゆるDXにフォーカスを絞り、デジタルマーケティングの初期からSEMやソーシャルメディアの拡大に関わる。2018年から、Rokt(ロクト)の日本代表として国内市場立ち上げと拡大を担う。

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