無人店舗、フードデリバリー、業務改革を進めるイオン九州のDXとは

文:松岡 由希子 (フリーランスライター)
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イオン九州(福岡県/柴田祐司社長)は、2020年9月1日付でマックスバリュ九州およびイオンストア九州と経営統合し、食品スーパー(SM)、総合スーパー(GMS)、ディスカウントストア(DS)、ホームセンター(HC)で計314店舗(21年2月期末時点)を展開する九州最大の小売企業となった。イオン九州はどのようなデジタル戦略を描いているのだろうか。

オフィス向け無人キャッシュレス店舗
イオン九州はオフィス向け無人キャッシュレス店舗を出すなどデジタル改革を進めている

デジタル売上高を
25年度に500億円

 イオン九州では、デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進によって新たな顧客体験(CX)とよりよい従業員体験(EX)を提供し、消費者の利便性を高め、労働生産性を向上させることで、九州の成長とくらしの豊かさに貢献することをめざしている。執行役員DX責任者の岩下良氏は、その実現に向けたアプローチとして「まずは既存業務プロセスの変革をすすめながら、新たな顧客価値の創造にも取り組みたい。また、既存の領域にとらわれない新たな価値や事業モデルの創出にも積極的に挑戦していく」との方針を示している。

 イオン(千葉県)は、21年度から25年度までの中期経営計画で「25年度にデジタル売上1兆円」との目標を掲げ、ECとネットスーパーを中心としたデジタル事業を加速させている。

 傘下のイオン九州は、2008年にECサイトを開設したのに続き、13年にはネットスーパーを開始するなど、イオングループ内でも先進的にデジタル事業に取り組んできた。イオンの中期経営計画と連動させ、25年度までには年間のデジタル売上高を500億円規模に拡大させ、デジタル売上比率を10%にまで高めることを目標としている。

 21年度はデジタル事業の拡大に向けた「種まき期」と位置づけ、ネットスーパーで年間売上高300億円、ECで年間売上高200億円の事業規模に対応できるシステムの構築をすすめている。21年9月にはECサイト「イオン九州オンライン」をリニューアルオープンした。

無人キャッシュレス店舗
「スマートNICO」を出店

 デジタル事業の強化と連動し、評価制度の見直しにも着手している。21年度は「商品部門の評価の5%をデジタルに関する取り組みに充てる」との新たな評価制度を試験的に導入した。岩下氏は「会社全体を同じ方向へと導くためにはDXの取り組みと会社の仕組みを連動させることが不可欠だ」と指摘する。

 イオン九州では、店舗を持つ強みとデジタル技術を融合させ、地域の特性や消費者ニーズの多様化に対応した新たな業態やサービスも積極的に展開している。

 事業所向け無人キャッシュレス店舗「スマートNICO(ニコ)」を21年4月以降、西部ガス情報システム(福岡県福岡市)や九電工(福岡県福岡市)など、福岡市内7カ所のオフィスに開設。近隣の店舗が商品供給を担うことで、効率よく運営できるのが強みだ。デジタル推進部長の板木伸也氏は「この新業態の知見やノウハウは蓄積されつつある。今後、品揃えやオペレーションの改善に継続的に取り組みながら、より大きく展開していく方針だ」と述べている。

 また、21年6月には、フードデリバリーサービス「ウォルト(Wolt)」と提携し、即食商品や総菜、酒類などを取り扱うオンデマンド型の商品配達サービスを開始した。岩下氏は「ニッチな消費者ニーズに対応するサービスとして開始したが、想定以上の反響を得ている」と一定の手応えを語る。今後、サービスの対象エリアと対応店舗を順次拡大していく計画だ。

フードデリバリーサービス「ウォルト(Wolt)」
21年6月には、フードデリバリーサービス「ウォルト(Wolt)」と提携し、即食商品や総菜、酒類などを取り扱うオンデマンド型の商品配達サービスを開始

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松岡 由希子 / フリーランスライター

米国MBA 取得後、スタートアップの支援や経営戦略の立案などの実務経験を経て、2008年、ジャーナリストに転身。食を取り巻く技術革新や次世代ビジネスの動向をグローバルな視点で追う。

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