アングル:「リアル」復活を急ぐイベント業界、環境対策が課題

ロイター
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米ラスベガスで開かれたCESの会場
1月28日、コロナ禍はオフィスでの仕事風景を一変させたかもしれない。だが「カンファレンス界」には、まだ変化の兆しはない。写真は1月5日、米ラスベガスで開かれたCESの会場で撮影(2022年 ロイター/Steve Marcus)

[28日 ロイター] – コロナ禍はオフィスでの仕事風景を一変させたかもしれない。だが「カンファレンス界」には、まだ変化の兆しはない。

オンライン開催を維持することによる環境面でのメリットは大きいが、イベント主催者はパンデミックが落ち着き次第、直接の対面による商談の機会を復活させたいと考えている。

航空機やガソリンを大量に消費するシャトルバスを使った移動から、膨大に消費されるペットボトル入りの水やカタログの山に至るまで、イベント開催による環境への負荷は甚大だ。

コーネル大学及び全米ライフサイクル評価センターの研究者が先月「ネイチャー」誌に発表した研究によれば、コロナ禍以前、国際イベントや会議産業による年間のカーボンフットプリント(二酸化炭素排出量)は、米国の温室効果ガスの年間排出量に匹敵する規模だった。

研究者らは、カンファレンスを全面的にオンラインに移行することでカーボンフットプリントを94%減らすことができると試算している。対面とオンライン併用のハイブリッド方式にシフトし、参加者のうち最大で半数までがオンラインに移行するだけでも、3分の2は減らせるという。

だがカンファレンス主催者らは、プロフェッショナルが一堂に会することのメリットを最大限活かすには、皆が実際に顔を合わせる必要があると言う。プレゼンテーションの前後に人脈を築いたり、競合他社や製品との直接の比較をしたり、交渉の帰すうを決める決定打として、対面でのやり取りは欠かせないというわけだ。

「仮想空間で『偶然の出会い』を生み出すことは本当に難しい」と語るのは、イベント代理店アイデンティティでイノベーション担当ディレクターを務めるフィリップ・マッグス氏。同社は、昨年グラスゴーで開催された国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)の開催を担当した。

主催者から見れば、対面による会議の方が稼ぎになる。360ライブメディアでイベント戦略・デザイン担当バイスプレジデントを務めるベス・サーモント氏は、一般的に、直接対面によるカンファレンスに比べ、デジタル開催の場合は参加料もスポンサー出資も低くなり、収益は約半分になってしまうと語る。

ラスベガスで開かれるデジタル見本市「CES」や不動産業界のカンファレンスMIPIMなどの主催者を含め、ロイターの取材に応じたカンファレンス主催大手6社は、コロナ禍前と同じ規模の対面イベントを復活させ、その一方で可能な限りカーボンフットプリントを抑制していく予定だとしている。

ロイターニュースでも、「ロイターイベント」と呼ばれるカンファレンス部門を運営している。

 

COP26もリアル開催で

音楽イベントや展示会、フェスティバル、そして企業カンファレンスなどのイベント産業は、コロナ禍から回復していくものと予想されている。ベリファイドマーケットリサーチでは、2020年には8870億ドル(101兆8500億円)だった市場規模が、28年には2兆2000億ドルに成長すると見込んでいる。

コロナ禍による2年近い制限を経て、つながりを取り戻すことを人々は強く求めている。1月に開催されたCESの復活はオミクロン株に水を差された格好だが、この感染力の高い変異株の感染が全世界的に急増している中で、開催地ラスベガスに直接足を運んだ人は4万人を超えた。

コロナ禍に襲われる前年の2019年には、17万5000人以上が来場した。

オンラインでのカンファレンスの方がよりインクルーシブ(包括的)で参加しやすいものになる可能性がある。参加費も安く、アクセスも容易だからだ。だが時には、合意形成を図る上で直接対面することが不可欠な場合もある。

英国で活動する複数の市民団体による組織である「COP26コアリション」は、昨年のCOP26をリアルで開催することは、開発途上国の声を十分に反映させるための唯一の手段だった、と指摘する。

「もちろん、こうしたカンファレンスのカーボンフットプリントはできるだけ低く抑えるべきだ。だがグローバルな経済や課題を考えるうえでは、(オンライン開催といった)他の選択肢は好ましくないと考えている」と語るのは、COP26コアリション代表のアサド・レーマン氏。

グラスゴーで開催されたCOP26には多くの国から約4万人の代表団が参加した。2週間にわたる同イベントでは、会場で使われた1万5000平方メートルものカーペットが会議後に寄付されたほか、参加者への飲料水の提供には再利用可能なアルミニウム製ボトルが採用され、カーボンニュートラルを確保するために主として地元で調達された食材によるメニューを提供するなど、幅広い試みが行われた。

だが、一部のVIPクラスの参加者の移動手段として多数のプライベートジェットがチャーターされたことは批判を招いた。

COP26開催を担当したアイデンティティは、参加者がどのような移動手段を選ぶかまでは指示できないとしている。

チューリヒで毎年開催されるテクノロジー系カンファレンスNOAHのマルコ・ロドジネク最高経営責任者(CEO)は、参加者には鉄道その他の公共交通機関の利用を推奨している、と話す。

だが全般的に世界各国の企業社会では、経営幹部のカンファレンス参加がもたらす影響への対策はなかなか進んでいない。グローバル・ビジネス・トラベル・アソシエーションが2021年4月に実施した世界的な調査では、出張の際に持続可能性に優れた交通手段を用いることを奨励している企業は、全体の7%に留まっていた。

「肉抜き」メニューも

イベント主催企業インフォーマやベルリンで開催されるK5フューチャー・リテールの主催者などは、参加枠を予約する際にカーボンオフセットを購入する機会を提供している。

カーボンオフセットは、汚染者が植林活動などの排出量削減プロジェクトに投資することで、投資に応じて与えられたクレジット(排出権)を使って自らの排出量による影響を相殺できるようにする仕組みだ。

気候変動を研究する科学者や環境保護団体は、カーボンオフセットでは二酸化炭素排出を相殺することはできないと主張する。投資先のプロジェクトが有効でなかったり、十分に監視されているとは限らないほか、問題の根本、つまり温室効果ガスを生み出す活動に対処できる訳ではないからだ。

オックスフォード大学の気候学者ミラン・クローワー氏は、「カーボンオフセットとは、後ろめたい思いをすることなく今まで通りのやり方を続けられる、という発想だ」と言う。

カンファレンス主催者がどこもカーボンオフセットを支持しているわけではない。

NOAHのロドジネクCEOは、イベントへのオンライン参加という選択肢を追加し、持続可能性に繋がる他の対策を実施する方が効果的だと話す。たとえば会場で提供されるメニューに肉と魚を使用せず、植物由来の食材を提供する、といった対策が考えられるという。

「NOAHの参加者1400人からは、カーボンオフセットは無いのかという問い合わせは1件もなかった」とロドジネクCEO。「あれはマーケティングのために利用されているだけだ」

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