「価格」と「品質」と「数量」の壁を乗り越える ユニクロの再生ポリエステル

北沢 みさ (MK Commerce&Communication代表)
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サステナブルな素材開発の壁は、「価格」と「品質」と「数量」

 小森田氏は、MD部では様々な商品カテゴリーを担当してきたが、総じてみるとカットソーを担当する期間が長かった。

 「カットソーは人々の生活の中で、最も日常的に着る機会が多い素材です。だからこそ、いいものを作ればお客様の生活を良くすることができる。ヒートテックやエアリズムがそうだったように、生活の不便を服で解決できる、社会の課題を服で解決できる、と思っていますので」(小森田氏)

 サステナビリティへの挑戦ということでは、カットソーはファスナーやフックなどの部品をほとんど使用しないため、リサイクル素材を取り入れやすい、という面もある。まず第一歩として、カットソー商品に使用しているポリエステルに再生ポリエステルを取り入れることから始めた。それが、スポーツアンバサダーも使用しているスポーツウェア向けのファブリック、ドライEXだ。

 ドライEXとは、汗を素早く吸収して拡散させる生地構造で肌面に汗が残りにくく、サラサラ感が続く機能性素材で、さらに人体工学に基づいて、汗をかきやすい部分にメッシュ素材を配置することにより通気性を向上させた素材である。

 新しい素材開発を進めていく上で、ユニクロにとってもっとも難しいのは、「価格」と「品質」と「数量」の壁を乗り越えなければならない、ということだ。この3つの要素すべてにおいて、ユニクロの水準をクリアさせなければならない。

 ファーストリテイリンググループの生産数量は、実に年間13億点(2021年度現在)に上る。低価格かつ高品質な素材を探す、あるいは開発するだけでも大変なことだが、それをクリアしたとしても、これだけの数量を確保するのは至難の業だ。

ファーストリテイリング 商品本部グローバルMD部部長 小森田真也氏

再生ポリエステルを使用した、「ドライEX」を開発

 再生ポリエステルは、回収された使用済みペットボトルをリサイクルして作られる。元々廃棄されているものを使うのでコストがかからないと思われがちだが、実際は、ペットボトルを洗浄したり、チップに加工する工程が入ることによって、バージンポリエステルよりも高コストになってしまう。そしてバージンポリエステルと比べ、繊細で糸が切れやすく、色がなかなか染まりにくいなどの難点もある。

 開発の当初、こだわったのは、日本製ペットボトルから作られたチップを使うことと、異物を除去する技術だ。日本製のペットボトルのよさは、着色されておらず、非常に再生産しやすいということ。さらに、新開発した異物除去技術により純度を高め、白の白色度の高いチップができる。特にドライEXは特品糸を使用しており、その糸を作るためには原料の品質自体を高める必要があった。

 「そういった問題もあり、はじめはパートナー企業様とかなり慎重に開発しました。そこでだいぶナレッジを積み、供給量も少しずつ増えてきましたが、それでもまだ少量しか作れず、初年度のドライEXはたった1型のポロシャツしかできませんでした」(小森田氏)

 たった1型といっても、サイズやカラーのバリエーションが豊富で、グローバルに展開しているユニクロでは、その数量は数十万点以上に上る。

 「実は、社内では、1型だけやっても意味がないという声もありました。でも、はじめは1型からでも、やらないよりはやる方がいいと信じて、押し切ってスタートしました。その後、異物除去技術も進化して、必ずしも日本製ペットボトルでなくても純度の高いチップの生成が可能となりましたし、生産数量も大幅に増えました。今ではドライEXという商品の100%が再生ポリエステル使用となっています。あのとき、たった1型でもやってよかったのだと思っています」(小森田氏)

ドライEX

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記事執筆者

北沢 みさ / MK Commerce&Communication代表

東京都出身、日本橋在住。早稲田大学第一文学部卒業。
メーカーのマーケティング担当、TV局のプロデューサーの経験を経て、
1999年大手SPA企業に入社しマーケティング・PRを12年、EC・WEBマーケティングを8年担当し、ブランドの急成長に寄与。
2018年に独立後は、30年に渡る実務経験を活かし、小売・アパレル業界を中心に複数企業のアドバイザーとして、マーケティングおよびEC業務を支援中。

 

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