大丸、三越伊勢丹…誰も語れない百貨店分析 政府の施策が百貨店を殺す「本質的理由」

河合 拓 (株式会社FRI & Company ltd..代表)
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百貨店が存亡の危機に追いやられている。コロナ禍前から百貨店の危機は囁かれていたが、新型コロナウイルス感染症(コロナ)が追い討ちをかけ、百貨店によっては、売上が単月で半分近くに落ち込む店もある。さまざまな評論家やアナリストが百貨店について分析をしている。だがその内容のほとんどはチグハグだ。理由は、以下の3つの本質論をないがしろにし、側(がわ)の議論に終始しているからである。
1.そもそも百貨店はいかにして生まれ拡大していったのか
2.なぜ百貨店は今のような危機に陥ったのか
3.百貨店の存在価値と成長戦略とは何か
これらの分析を踏まえ、現状と百貨店の未来について語りたいと思う。

winhorse/istock
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百貨店の本質は百貨、つまり、なんでもおいてあるという意味

 百貨店とは、文字通り「百貨」、つまり、なんでも売っているという意味だ。概念的には百貨店の対立概念は「専門店」である。専門店は、例えば衣服の専門店、スポーツ用品の専門店など、ある特定の領域に専門特化し品数やレア商品なども揃えたもので、消費者は「なんでも売っているが、それぞれが少ししかない」百貨店より専門店を好むと言われてきた。

 しかし、この当たり前の説明、つまり「専門」か「百貨」か、という比較はあまりに短絡的である。なぜなら、日本の「百貨店」は、世界的には「ラグジュアリーデパートメント」、つまり、高額商品を売るという但し書きがつくからだ。

 一昔前は、休日に家族でお出かけにゆくといえば、「百貨店」だった。フロアはお母さん向けの服、一つ上がればお姉さんの服、一階は化粧品で、お父さん向けゴルフウエアも置いてある。お買い物に疲れたら、屋上に日本の名店と言われるレストランが立ち並び美味しいランチが楽しめる。最後は、地下で晩御飯のお総菜を買って帰る。バブル時代の百貨店とはこんな感じだ。

 そこに、現れたのがモール型ショッピングセンター(SC)だ。SCは2〜3層建てで、車ででかける広大な敷地に広がる業態だ。広大な駐車場を構え、映画館からスターバックスコーヒーなどの人気店が入店し、衣料品一辺倒の百貨店に対し、雑貨やアミューズメントストアなど、フロアに関係なく「売れているテナント」が、そのまま「箱(はこ)」をつくりテナントが自社の世界観を出している。

 例えば、ルイヴィトンが伊勢丹に入っていない(浦和店を除く、また最近は、新宿店にポップアップストアを出したが)のを不思議に思った人はいないだろうか。百貨店は、基本的に商品をアパレルやメーカーから仕入れ、百貨店が自前で陳列・編集したいため、例えばバッグであれば、グッチやプラダ、ルイヴィトンを自由に並べ、「カバン売場」という具合にしたい。しかし、ルイヴィトン側からすれば、そんなことをされたらたまったものではない。あの重厚感あふれる箱(テナントの売場をいう)を自分の世界観で演出したのだ。したがって、伊勢丹など、編集力に自信のある百貨店には入店しない。

 それでは、百貨店の編集力とはどの程度のものか。最悪なのは、あの「平原」と言われるハンガーラックに無造作に並べられた商品群である。これは、GMS (General merchandising store 総合スーパー日常品で低価格品に特化し、百貨店は高額品でハレの日向けの商品を扱う)の平場との違いは値段だけという具合だ。伊勢丹や阪急などをのぞき、編集力がない百貨店は、自主編集といっても安物売場のごとくただ陳列しているだけだ。

百貨店からSCへ、お客が移った理由

  この結果、駅近の好立地にそびえ立つ高額商品を売る百貨店から、クルマで郊外にでかけリーズナブルで人気店が建ち並ぶSCへと、休日の家族は流れた。SCの価格は、百貨店の70%から50%程度である。もちろん、百貨店のレストラン街にある有名店は入っていないが、お手頃で美味しいレストランはあるし、ユニクロ、ABCマートなどの人気店から映画館やホームセンターまである。

  また、収益の悪いテナントは激しく入れ替わるため、毎週行っても新しい店が入り飽きないのだ。SCビジネスの本質は、「デベロッパー」といって、自社の場所をブランドに家賃貸している不動産業なのである。百貨店が商品を仕入れ、編集から販売までの人を揃える小売業とすれば、SCはテナントに不動産を貸しているだけで人件費も百貨店ほどかからない。大局的に見れば、アパレルにも販管費がかかり、納入先の百貨店にも販管費がダブルコストでかかってくる。デベロッパー業務に徹した方が、小売上代は最適化されることになる。

  結果、百貨店の流通コストは上昇し、売上の約30%が百貨店の取り分と考えてよいし、好立地の集客力がある館(やかた)では50%以上も納入率(家賃見合い)をとる。また、家賃商売をしていれば、「ABCマート(靴)」がダメなら、「タリーズ(カフェ)」を入れれば良いという具合に、売場が靴だろうがコーヒーだろうが坪効率(面積当たりの売上)が上がれば良いと割り切れる

  しかし、百貨店の場合、SCのように、靴売場をやめてカフェに入れ変えるということは構造上できない。例えばテナント側は、有名ブランドをテコにしてエレベータ横の好立地(ここがもっとも売上が立つ)に新規ブランドを入れたい、というような交渉が可能だし、何よりもフロアがアイテム別に編成されているためだ。だから、特に郊外や地方都市に行くほど、百貨店に入居するテナントのラインナップは代わり映えしないものとなり、SCが家族の休日を誘引してきたわけだ。

  私はかつて、青森の地方百貨店の再建を頼まれたことがある。現地調査に行った時、シャビーな百貨店と、広大な土地に観覧車までそびえ立つSCとを比較し、再建依頼を断ったことがある。勝敗は明らかだったからだ。

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記事執筆者

河合 拓 / 株式会社FRI & Company ltd.. 代表

株式会社FRI & Company ltd..代表 Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)。The longreachgroup(投資ファンド)のマネジメントアドバイザを経て、最近はスタートアップ企業のIPO支援、DX戦略などアパレル産業以外に業務は拡大。会社のヴィジョンは小さな総合病院

著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「生き残るアパレル死ぬアパレル」「知らなきゃいけないアパレルの話」。メディア出演:「クローズアップ現代」「ABEMA TV」「海外向け衛星放送Bizbuzz Japan」「テレビ広島」「NHKニュース」。経済産業省有識者会議に出席し産業政策を提言。デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言

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