経営統合のシナジーを創出しカスミの質的転換に生かす=カスミ 藤田元宏 社長

聞き手・構成:下田健司
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「ソーシャルシフトの経営」 自主自律型の運営を推進

──大手小売業が営業体制を本部主導から店舗主導へシフトしてきています。カスミは3年前から「ソーシャルシフトの経営」に取り組んできました。

藤田 ソーシャルシフトの経営に取り組み始めて、今年で4年目になります。ソーシャルシフトがめざすのは、自主自律型の店舗運営です。社内組織では、店長の直属の上司にあたる部長職をなくして、店長に権限を委譲しました。約120店がソーシャルシフトの店舗として取り組んでいますが、自主自律型の店舗運営を実現できているのはそのうち2?3割の店舗です。それらの店舗では、現場で考え、自ら行動し、売場づくりやお客さまとの交流の場づくりなどに取り組み、数値面でも客数が前年を上回っています。自主自律型の店舗運営をさらに磨いていきたいと考えています。

──ソーシャルシフトによって従業員の行動をどう変えるのですか。

藤田 人間の行動はすぐに変わるものではません。店長、次長、チーフと続くタテ組織の中でずっと仕事をしてきていますから、従業員は上からの指示で動きます。自主自律型の店舗運営をめざすといっても、組織をまったく変えるのではなく、その組織は残しつつ、たとえば地域で祭りやイベントがあるときに、従業員自らが店として地域のお客さまに何をするかといったことを考えるようにするのです。みんなで考え、行動するチームをつくっていくことがソーシャルシフトの要です。

 従来のように、店長からの指示で売場づくりをすることも大事です。店の独自性をどう出すかについて自ら考える集団を、これまでの組織の中に埋め込んでいくのがソーシャルシフトの考え方です。

 店長の指示に慣れきった従業員にとって、自ら提案するのは難しいでしょう。しかし、一度でも提案することができれば、大きく変わります。能力がありながらそれを生かせなかった従業員が1つのチームになったときに、今までにない力が発揮できるようになります。これによって、売場や商品、サービスが変わります。それを実現できた店は、競合店とは違った店になるでしょう。

──ソーシャルシフトの経営を今後どのように推進していきますか。

藤田 これまで、交流サイトの「フェイスブック」を使って、売場づくりなどの情報を共有してきました。従業員が自らつくった売場の画像やお客さまの反応などのコメントを投稿でき、従業員約2000人がそれを閲覧できるようにしました。

 今年10月には、フェイスブックに投稿されたこれまでの情報をデータベース化しました。たとえば、ハロウィーンというキーワードで検索すると、過去のハロウィーンの飾り付けや売場づくりの投稿画像をすべて閲覧できるようにしたのです。できるだけ多くの従業員が簡単に調べられて、閲覧できるような環境を整えました。これまでは2000人の限られた従業員しか閲覧できませんでしたし、スマートフォンの小さい画面は閲覧性に劣るところがありました。

 1つひとつのデータは非常に楽しいですね。イラストの得意な人が描いたPOPや、手先の器用な人がつくった飾り付けなど、大量の取り組み例をデータベース化しています。予約獲得のためにこんな工夫をした、こんなやり方で試食を勧めたら売上が伸びたといった事例も積み上がってきています。これらは、われわれの営業面の重要なノウハウになっています。

──ソーシャルシフトをU.S.M.Hで共有することは考えていますか。

藤田 われわれのこれまでの経験から言えることですが、会社が本気でそういう方向に舵を切らない限り、おそらく長続きしないと思います。長続きしなければ、コストがかかるだけです。現状の組織の中で、上で一生懸命に旗を振ったところで、下が動くわけではありません。「忙しいのに、こんなことやっていられない」と思われたら、そこで終わりです。ですから、3年取り組んできて、まだ2?3割の店しかソーシャルシフトを実現できていないのです。

ローカルを大事に地域商品を発掘する

──カスミは、「フードスクエア」「フードマーケット」「フードオフストッカー」の3タイプの店舗を展開しています。どのような店舗戦略を考えていますか。

藤田 年間の新規出店数は10店ほどです。16年度から新しい中期計画がスタートしますが、この水準を続けていき、成長性を維持しようと考えています。

 千葉県、埼玉県が今後の出店強化地域です。ここに橋頭堡をつくりたいと考えています。マーケットが大きいですから、食生活の提案を強めた「フードスクエア」が主力になるでしょう。フードスクエアは現在、カスミ全体を牽引するフォーマットになってきています。

 価格訴求型の「フードオフストッカー」は、標準店舗の「フードマーケット」から転換した店舗です。14年度下期から営業利益が見込めるようになってきていますが、不振店もありますから来年度はこれらの店の改装を検討していく予定です。

 フードマーケットは店舗数も多く、これまで収益の大半を占めていました。しかし、店舗年齢が10年近くになっていますから、活性化投資をして若返りを図りたいと考えています。店舗年齢が上がると、品揃えやサービスなどで、地域のお客さまのニーズに合わなくなってきます。今年度下期に具体的に検討して、16年度からテコ入れしようと考えています。

──カスミとしての商品開発については、どのように考えていますか。

藤田 われわれはローカルを大事にしようと考えています。地域産品や地域の嗜好に合った商品を集めて売場づくりをしています。商品部の中には、「地域商品開発部」という部署を設けて、新店や改装店で、その地域の名産品を発掘しています。地域商品の開発を追求していけば、その先にPBが生まれるかもしれないと思っています。

 今年10月にオープンした千波店では、全農さんと組んで、生鮮食品、日配品、加工食品などの国産品を売場各所で展開しています。米、豆類、カットサラダ、加工肉、パスタ、菓子、レトルト米飯などさまざまな商品を揃えました。お客さまが考える安全・安心に国産という要素があるのではないかと考えたからです。お客さまの中には農業や漁業の従事者がたくさんいらっしゃいます。その方々と一緒につくるような売場ができないかと以前から考えていたことも理由の1つです。

──16年度からスタートする3カ年の中期計画のポイントは何ですか。

藤田 成長戦略をどう描くか、そしてU.S.M.Hとしてシナジーをどう創出するかということです。この2つが要になります。U.S.M.Hの計画ともすり合わせる必要がありますが、経営統合前に各社で意向を出し合っていますから大きくかい離することはないでしょう。

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