実録!働かせ方改革(4)「退職強要」事件を教訓に、変われたメーカーのここがスゴい!

2020/01/10 05:55
神南文弥(じんなん ぶんや)

働き方改革が進み、残業時間削減や有休休暇促進、在宅勤務などに踏み込む会社が増えてきた。それにともない、働きやすい職場があらためて注目されている。本シリーズでは、部下の上手な教育を実施したりして働きがいのある職場をつくり、業績を改善する、“働かせ方改革”に成功しつつある具体的な事例を紹介する。
いずれも私が信用金庫に勤務していた頃や退職後に籍を置く税理士事務所で見聞きした事例だ。諸事情あって特定できないように一部を加工したことは、あらかじめ断っておきたい。事例の後に「ここがよかった」というポイントを取り上げ、解説を加えた。
今回は、中堅の自動車部品メーカーで起きた労働事件を紹介しよう。会社の対応は、なかなかできないはずだ。働き方改革が進み、労使関係が大きく変わろうとしているからこそ、ぜひ、参考にしていただきたい。

Photo by valentinrussanov
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第4回の舞台:中堅の自動車部品メーカー

(正社員700人、非正規社員1200人)

 

自社の退職強要問題を封印せず、風土改革を断行した英断

 ここは、自治体の労政事務所。いわゆる出先機関で、職員たちの大半は労働経済局に籍を置く地方公務員だ。企業で起きた解雇や退職勧奨、パワハラ、いじめ、セクハラ、賃金未払いなどの事件について、労働者もしくは事業主(経営側)の申し出を受けて、解決に向けて調停、あっせんをする。

 たとえば、労働者から「辞めろと突然、上司から言われた」などと職員に申告があったとしよう。その際に、本人に代わって職員が会社の総務などに電話するなどして事情を確認する。その後、数回の面談をして解決の糸口を探る。

 最終的には「円満解決した」と言われることが多いが、これはあくまでも表向き。実際は、「金銭解決」が半数以上を占めると職員たちは私のヒアリングに答える。つまり、会社が一定の範囲で非を認め、基本給の数か月から半年分と退職金を本人に支払い、その代わりに退職するというものだ。形式上は、解雇ではなく、本人の意志で辞めたこと(依願退職)になるケースが多い。解雇では再就職に不利に働く場合がありうるからだという。

 1年半前、あるメーカーに勤務する30代前半の男性が「(上司である)副部長から退職を強く迫られた」として労政事務所へ駆け込んだ。職員から連絡を受けた総務部長は、担当役員と顧問弁護士に相談しつつも、パニック状態に陥った。結局、副部長の行為は「退職強要」(本人の意志に反して、強引に辞めさせようとすること。民法の損害賠償の請求対象行為で、不当な行為)であることを会社は認め、職員の立ち合いのもと、総務部長が本人に謝罪をした。

 本人は解決後に退職し、副部長は1年後に他部署へ異動した。この結末はよく見られるものだが、他の会社に比べて優れていたのが、一連の事件をいわゆる「封印」しなかったことである。総務の担当役員が「本人とは話し合いのうえ、金銭解決をした。副部長に落ち度があり、会社としてそれを認めた」と役員会や管理職会議で詳細に説明をした。さらには、年に2回実施する全社員が参加する集会や新入社員研修でも、一連の事件の顛末と教訓を繰り返し説いた。社内イントラネットにも、詳細にアナウンスをした。

 こういうケースは、私がヒアリングをしているとごく稀である。通常は、組織的にかん口令をしいて隠すものだ。社長や総務担当役員が一般職の頃、労働組合の熱心な役員であり、この類の問題には敏感に反応する傾向があったこと。さらに、現在も労働組合が盛んに活動をしていて、事件を放置しておくと社内に波及する恐れがあったことが噂も含め、ささやかれている。

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