実録!働かせ方改革(3)働きやすさアピールで新卒エントリー者を大幅増にした大手小売店

2019/12/31 06:01
神南文弥(じんなん ぶんや)

働き方改革が進み、残業時間削減や有休休暇促進、在宅勤務などに踏み込む会社が増えてきた。それにともない、働きやすい職場があらためて注目されている。本シリーズでは、部下の上手な教育を実施したりして働きがいのある職場をつくり、業績を改善する、“働かせ方改革”に成功しつつある具体的な事例を紹介する。
いずれも私が信用金庫に勤務していた頃や退職後に籍を置く税理士事務所で見聞きした事例だ。諸事情あって特定できないように一部を加工したことは、あらかじめ断っておきたい。事例の後に「ここがよかった」というポイントを取り上げ、解説を加えた。
今回は、新卒(大卒)の採用力を急速に強化している大手小売店を紹介しよう。その手法については様々なとらえ方ができるのかもしれないが、私は意味の深いものだと思う。ぜひ、参考にしていただきたい。

Photo by TAGSTOCK1
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第3回の舞台:大手小売店

(正社員900人、アルバイト7000人)

 

ワークライフバランスの“ライフ充実”を訴求した結果……

 ランチを終えた後、喫茶店でコーヒーを飲みながら営業課長(42歳)が、人事部の新卒採用担当グループの課長(41歳)と話し合う。

 「あの内容じゃあ、詐欺みたいなもんだよ」

 「いや、エントリー者数を増やすことがまずは先決。大量の母集団が形成されてこそ、何度かの面接試験でふるいにかけることができる。エントリーを受け付ける段階では文句なしに、数が必要なんだ」

 「だけど、うちの新卒用の求人サイトは、働き方改革に(会社として)大胆に取り組んでいるとしつこいほどにアピールしている。女性の管理職育成や在宅勤務、労働時間削減なんか、盛んに…」

 「事実関係に誤りがないから、あれでいいんだよ」

 「だけど、エントリー者数を増やそうとして、いいことばかりをアピールしても、いざ入ったら、彼らはこんなはずじゃなかった、と思うに決まっているさ」

 「まあな…」

 「実際、次々に辞めていくじゃん!」

 ここ3年程、人事部の新卒(主に大卒)の採用担当者と面接官として関わる管理職が頻繁に交わすやりとりだ。人事部が3年前に制作した新卒採用のウェブサイトの内容が今の時代を反映し、「働きやすい職場」であることをことさら強調しているように管理職たちには見えるようだ。ワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)の「ワーク」の意識に乏しい学生が増えすぎている、と嘆くのだ。

 実際、本エントリー者数は5年程前の約3500人から5000人程に増えた。そのことについては社内の関係者はおおむね納得しているが、最終面接(役員面接)に残る学生たちの意識が、5年以上前よりも数ランクは低いのでないか、とみる管理職が多い。特に仕事よりも、「余暇の過ごし方」や「趣味」などに強い関心がある学生が最終面接を受けるうちの約7割という。しかも、入社3年以内の退職者数が5年程前より増えつつあるようだ。

 前述の営業課長が、採用担当課長にぼやく。

 「うち(営業課)でも使えない新人が増えている。すぐにへたれる。だけど、学生の数が減り、働き方改革も進む。採用試験では、学生に迎合するだけで本当にいいのかな?」

 「まぁ、我慢しろよ。今に人事部で採用後の教育態勢を一新して、軌道に乗せるさ。俺に案があるんだ。すでに(人事)部長らには伝えて、了解は取れているんだよ。反転攻勢をかけるさ」

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