関西進出のオーケー、データでみるその「強さ」と京阪神M&A戦略のゆくえ

中井 彰人 (nakaja lab代表取締役/流通アナリスト)
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改めておさえておきたいオーケーの「強さ」

 首都圏以外の方には、オーケーとはどんなスーパーなのかよくわからないかもしれないので、その特徴をざっくりとご説明しておこう。

 オーケーは価格訴求型のディスカウントスーパの位置づけだが、いわゆる「安売りスーパー」とは異なる。低価格の“バッタもん”や、プライベートブランド商品ではなく、品質が担保されている大手食品メーカーのナショナルブランド(NB)商品を、他店より安く売ることに徹しているのがオーケーの特徴だ。

 NB商品は競合店でも販売しているため、消費者は容易に価格比較ができる。すると、いつしか消費者は「(NB商品は)オーケーで買えば損がない」と信じて来店し、利益率の高い生鮮や総菜もついで買いするようになる。結果として、コスパを重視する消費者の多くがオーケーで買物する方が賢いと判断するようになる。

 そのため、実はコスパにうるさい富裕層にオーケーの支持者は多く、休日は駐車場が高級車の展示場のようになっている店舗も少なくない。平均売場面積1500㎡ほどのオーケーの1店舗当たり年商は約40億円に達している。これは平均売場面積2500㎡ある食品スーパー最大手ライフ(首都圏)の約30億円の1.3倍以上(売場効率では2.2倍とダブルスコアの差)の販売力がある。京阪神でもこの戦略の強みが薄れることは考えにくく、競合各社はオーケーの驚異を実体験し、その実力を本当に意味で「知る」ことになるのだろう。

残された「内側マーケット」は関西だけ?

 もし、オーケーが店舗数84店舗の関西スーパーを傘下に収めて、それらの店舗を「オーケー化」し、仮に1店舗あたり売上高が40億円に増えたと仮定したなら、単純計算すると3360億円になっているはずだった。その構想が潰えた後も、オーケーはゼロから積み上げていくことも辞さず、東大阪への新店投入を決定した。なぜ、そこまで関西進出にこだわるのか。それは、オーケーが首都圏で出店エリアと定めている「国道16号線の内側」と同質のマーケットは、関西にしか存在しないからである。

 こんなデータがある。国勢調査では、主な通勤移動手段を市町村別に調査しており、クルマを主要手段とする割合が3割未満の市町村を抽出してみると、首都圏では16号線内側エリアに似た地域となり、その合計人口は2584万人に達する(図表②)。同じ条件を京阪神で抽出すると合計人口は1100万人となり、一定規模の「内側マーケット」があることがわかる。しかし、3大都市圏でも、中京圏では名古屋市は中心6区63万人しかなく、ほぼクルマ社会になっていることがわかる。オーケーが主要攻略エリアとして設定する「16号線内側」と同じ構造のマーケットは首都圏以外では関西しかないことがおわかりいただけるだろう。

 こうした背景から関西攻略を諦めることはできないオーケーは、地道な新規出店でその威力を示しつつ、M&Aを進めていくという作戦をとるだろう。しかし京阪神エリアは、今回の関西スーパー争奪戦の前後で、かなり寡占化が進んでいて、「H2O+万代」同盟の売上高の単純合計は7733億円にもなる。次いでライフが3768億円、イオングループ(光洋+マックスバリュ西日本)が2478億円*、平和堂が1203億円と、京阪神エリアでは有力各社が割拠している。これら大手以外の関西地場中堅スーパーも、実は一癖も二癖もある“地方豪族”集団であり、そう簡単に軍門に下るとは思えない。
*関西圏での売上高が不明のダイエーは除いている

 いずれにしても、オーケーの関西におけるシェア拡大は上位集団に追いつく規模になるには相応の時間を要することになりそうだ。関西スーパー争奪戦での僅差での敗北は、オーケーにとっては痛恨の極みであったことだけは間違いない。

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記事執筆者

中井 彰人 / 株式会社nakaja lab nakaja lab代表取締役/流通アナリスト
みずほ銀行産業調査部シニアアナリスト(12年間)を経て、2016年より流通アナリストとして独立。 2018年3月、株式会社nakaja labを設立、代表取締役に就任、コンサル、執筆、講演等で活動中。 2020年9月Yahoo!ニュース公式コメンテーター就任(2022年よりオーサー兼任)。 2021年8月、技術評論社より著書「図解即戦力 小売業界」発刊。現在、DCSオンライン他、月刊連載4本、及び、マスコミへの知見提供を実施中。起業支援、地方創生支援もライフワークとしている。

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