ユニクロ失速の秘密&通販KPIを活用した成熟時代の新しいアパレルビジネスのKPIとは

河合 拓
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これからの10年、アパレル産業にとって日本市場は絶望的だ– 私は折につけ、そのように述べてきた。その理由は、そもそもの人口減少による市場の縮小、買い換えサイクル長期化、生産段階で排出される環境負荷の管理コストの増大、進む円安と上がらない上代など、挙げれば切りが無い。今回はユニクロをキャッチアップする中国アパレル事情と、アパレルビジネスを進化させるために理解しておきたい通販ビジネスのKPI(重要業績指標)について解説したい。

ファーストリテイリングに異変?中国苦戦は「国潮トレンド」か?

北京のユニクロ店舗
(2021年 ロイター/Florence Lo)

ファーストリテイリングは218月期業績について、国内と中国の販売苦戦を理由に計画の下方修正をしている。228月期第1四半期については増収増益で計画を大幅に上回ったが、国内ユニクロ事業の売上収益は対前期比274億円のマイナス(計画比ではプラス)、海外事業はアジア・オセアニア、北米、欧州は好調だったがグレーターチャイナは若干の減収、計画比は達成するも、昨対比は大幅減益であった。1月13日発表の決算説明会では、日本の減収には軽く触れ、21年9-10月の暖冬とサプライチェーンによる遅延に起因した売り逃しと説明。中国については、あくまでもオミクロン株による行動規制で、懸念された競争力は揺るぎないものであることが強調された。
どこか腑に落ちなかった私は、自身の中国ネットワークを活用して消費者や、アパレル関係者にヒアリングしてみた。その結果、ローカルアパレルの品質が向上し、国潮トレンド” (中国文化を見直すトレンドで、アパレルや音楽でも現代らしさと中華らしさを融合させたものに人気が集まる)により、もはや「日本製は安心・安全」という神通力も怪しくなってきたということである。

日本のアパレル全体に言えることだが、いかに中国が恐ろしいスピードで変革したか?そしていかに欧米は循環経済に対応したESG経営のイニシアティブを持って、早い者勝ちが如く、「新しい資本主義」のあり方の基準を作ってしまい、日本企業の世界化を困難たらしめるか、ということかと思う。

これは国家間の競争であり、国家間の方針の問題である。

ファーストリテイリングに話を戻すと、気になるのが20211014日の決算発表。「これからは米国を攻める」という衝撃的な方針説明の後、質疑応答では言い直すように「アジアを攻める方針はこれまでと変わらず、加えて、米国も攻めるという意味だ」と訂正していた。四半期前の説明と、上記結果、すなわち欧米の大幅増収、増益と中国の停滞は予め予知されていたものだったのではと考えるのは、よみすぎだろうか。

さて、ファストリ以外の日本のアパレル企業の話をすれば、総じて同じリスクを毎年繰り返しているように思う。私は、今から10年前「ブランドで競争する技術」で、トレンドやカントリーリスクを回避するためには、チャネル・エリアの分散化による世界化、分散化が必要と提言したのだが、実態は「OMOだ、D2Cだ」と消費者のKBF (購買決定要因)とは関係ない、企業側の仕組みで競争優位が決まるが如くシステム競争を繰り返している

そもそも、競争力のない企業は市場原理にまかせ、経済の新陳代と金融引き締めを行っている米国と経済の新陳代謝に成功しているようには見えない円安株安に陥っている日本では経営環境が異なり、同じ戦略をとっても産業成長するはずがない。
したがって、今後10年は誰が考えても日本市場はダメで、海外でマネタイズしなければ未来はないことは明らかだ。「越境EC × (本物の)D2C × (戦略的)ライブコマース」のモデルを考え抜き、今年からでも着手しなければ勝算はないのだ。

 

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