焦点:正念場の中国ロボットベンチャー、コロナ禍を商機にできるか

ロイター
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Youibotのエンジニア
ロボットへの関心は世界で急激に高まっている。新型コロナで病院やメーカーやサービス企業、さらには政府機関も、人同士の接触を極力減らす方法を新たに、それも緊急に見つけなければいけなくなっているからだ。写真はYouibotのエンジニア。深センで5月撮影(2020年 ロイター/David Kirton)

[深セン 15日 ロイター] – 中国・深センの新興企業、大象机器人科技(エレファント・ロボティクス)の研究所でジョエイ・ソン最高経営責任者(CEO)が自慢げに見せる新しいロボット猫は、両目が青く輝き、人なつっこいしぐさで、CEOの心配事をよそにすっかり幸せそうに見える。

大象の主要事業は工場の組み立てラインの自動化だ。しかし、新型コロナウイルス危機で今年の売上高は3分の1を失い、従業員も2割削減を余儀なくされた。「きついです。以前の従業員は30人を超えていた」とソン氏は話す。

売り上げ減に直面した同社は、昨年12月にクラウドファンディングサイト「キックスターター」で資金を募った猫型ロボットのプロジェクトに、より力を注いでいる。最初の大口出荷用の1000体は既に用意した。同社は在宅で仕事をする消費者が増えれば「ペット型ロボット」への引き合いが高まると期待している。

ソンCEOは「産業用ロボットを今売ることができないなら、我々は会社のリスクを下げるべく別のロボットを重視するだけだ」と語った。

ロボットへの関心は世界で急激に高まっている。新型コロナで病院やメーカーやサービス企業、さらには政府機関も、人同士の接触を極力減らす方法を新たに、それも緊急に見つけなければいけなくなっているからだ。

中国は他の多くの国に数カ月先行して経済活動を再開しており、世界最大の産業用ロボット市場でもある。しかし、この中国で、新たなビジネスはおおむね、倉庫用や消毒用のロボット需要に限られているように見える。業界幹部によると、大半の顧客は今、事業環境の不透明さに足がすくみ過ぎて、高価な工場設備に投資ができない。

産業機器メーカー、CNIMチャイナのマネジングディレクター、ビンセント・ベリー氏は「自動化は新型コロナ感染を封じ込めるひとつの方法のはずだ」と語る。「しかし、投資したいと思うなら市場の見通しを持つことが必要になる。今、そんな水晶玉のようなものを持っているのは誰もいない」という。

上海のコンサルタント会社、ステラー・エンタープライズによると、今年第1・四半期の中国の産業用ロボットの販売は前年同期に比べ20%急減した。第2・四半期も15%減少する可能性が高いとみている。

新型コロナは幅広く打撃を与えているが、スイスのABB、日本の安川電機、ドイツのクーカなど中国に進出しているロボットメーカー大手は、今回の嵐を切り抜けられると見込まれている。

しかし、中国国内のロボット関連の新興企業にとっては、今年はこれからが運命の分かれどころになる可能性がある。こうした企業はこれまで、中国の各メーカーが工場の生産ラインの自動化を促進させていくことに見通しをつないでいた。ベンチャーキャピタル(VC)も、どの企業が目先の苦境で生き残れるかを見極めようとしているため、新規の資金調達は厳しい。

中国のロボット業界に何件かの関わりを持つ投資会社の幹部は「彼らの事業がどう回復するか、常態に戻れるのかどうかを見極めるため、(投資決定前に)あと1カ月や2カ月は絶対に待ちたい」と語った。

幸運

清掃業務や倉庫関連業務のロボットに特化したり、なんとか事業の中心にしたりしてきた新興企業にとって、1カ月以上の封鎖措置が中国のサプライチェーンを寸断し、受注も混乱させた時期をへて、見通しは今明るくなってきている。

台湾の鴻海精密工業から支援を受ける深セン拠点の産業用清掃ロボットメーカー、Trioooのローレンス・ハン最高技術責任者(CTO)は「われわれは苦闘しているが、幸運でもある」と語る。

同社は納品が3カ月遅れている状況という。現在、受注の残りを一掃しようとしているところで、最終的には欧米市場でも販売できたらいいと考えている。欧米市場ではロボットは病院や空港などで使われ、人件費上昇がロボットのコスト効率を向上させている。

倉庫で運搬したり積んだりするロボットのメーカーで北京拠点のギークプラスは、今年2月、米カリフォルニア州のサンディエゴ事務所を開設した。それはちょうど、中国のサプライチェーンが停止したタイミングだった。ギークプラス・アメリカのマーク・メッシナ最高執行責任者(COO)によると、3カ月間の手探りの時期をへて、突然、需要が急増。新型コロナで消費者の買い物の大半がオンラインに移行したためという。

発電所用などのロボットが専門の深セン拠点のユイボットは、新型コロナをきっかけに公共の場をパトロールできるロボットを開発した。人の体温をスキャンし、周囲に人がいなければ、ウイルスを殺すとされる紫外線を出すロボットだ。イタリア深セン拠点のユイボット、シンガポール、トルコで買い手を見つけたほか、米医療施設が製品をトライアル中だ。

ユイボットのコディー・ツァンCEOは「我々にとって、この製品の最大の価値は、海外への納品を経験することができて、事業を発展させる多様な方法を得ることができることにある」と話した。

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