アングル:中国新興コスメ完美日記、Z世代人気で欧米大手を猛追

ロイター
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北京にある完美日記の店舗を訪れた客
4年前に突如として現われ、チャットグループや動画ストリーミング、低価格のファンデーションを武器にあっというまにデジタル時代の化粧品最大手にのしあがったのが、中国の完美日記(パーフェクト・ダイアリー)だ。写真は25日、北京にある完美日記の店舗を訪れた客(2020年 ロイター/Tingshu Wang)

[北京/香港 26日 ロイター] – 4年前に突如として現われ、チャットグループや動画ストリーミング、低価格のファンデーションを武器にあっというまにデジタル時代の化粧品最大手にのしあがったのが、中国の完美日記(パーフェクト・ダイアリー)だ。世界第2位の規模である中国の化粧品市場で、すでにロレアル、LVMHに次ぐ存在となっている。

広州に本拠を置くユニコーン企業である完美日記は、香港でのIPO(新規株式公開)を照準に定めている。その目標を視野に置き、同社がいま力を入れているのが東南アジア市場だ。ターゲットとするのは、広東出身の21歳の学生、ウェン・シャンさんのような、ソーシャルメディアを多用するミレニアル世代である。

ウェンさんはNARSやレブロンといった西側のブランドに見切りをつけ、彼女が年間で化粧品に投じる3000元(約4万6000円)の予算全額を、アイシャドウパレットなど完美日記製の化粧品に投じている。

彼女が完美日記に乗り換えたのは、ルームメイトからの助言がきっかけだった。「外国ブランドはファンデーションもたくさん種類があって、混乱してしまうことが多いし、どれが一番自分に向いているのかも分からない。国産ブランドは、中国の消費者にとって何がいいか知っている」

ユーロモニターの2019年のデータによれば、グローバル市場では同社はまだ最大手のロレアルに比べて取るに足らない存在だが、カラーコスメ部門では中国市場の4%を占めている。これはエステローダー傘下のMACと並んで3位であり、これを上回るのは高級ブランド大手LVMH傘下のクリスチャン・ディオール、3ブランド合計で20%以上のシェアを誇るロレアルだけである。

ユーロモニターの試算では、中国の化粧品市場は2015年以降で2倍以上に成長し、2019年には80億ドル(約8480億円)近くに達している。国内中産階級の拡大に伴い、2024年には約150億ドル規模に膨れあがるとみられる。

SNSでZ世代をつかむ

完美日記の台頭を支えたのは、積極的なソーシャルメディア(SNS)戦略だ。同社は低価格と合わせて、「抖音(Douyin)」(TikTokの国内版)や「微信(WeChat)」といったSNSプラットフォームを活用、収集した顧客データを活用して新製品を迅速に考案・発売し、さらには「リップスティック・キング」ことリー・ジアチ氏など、ネットで膨大なフォロワーを持ちカリスマ性のあるインフルエンサーの力を借りた。

リー氏は電子商取引大手のアリババが運営するサイト「淘宝」(Taobao)上での人気ライブストリーミング番組で、「女の子たち、みんなこれを買いなよ!」という得意のキャッチフレーズを叫びつつ、完美日記製品を激賞した。

アナリストらは、完美日記の台頭は、ミレニアル世代よりさらに若い「Z世代」と呼ばれる年齢層に見られる国産品志向を追い風にしてきたと語る。

華泰証券のアナリスト、メイ・シン氏は「Z世代は豊かな中国で育ってきた」と語る。「上の世代と異なり、彼らには、国産品より西側諸国の製品の方が優るというイメージがない」

国産ブランドの成長についてロレアル中国事業部にコメントを求めたところ、広報担当者は直接の回答を避けつつ、「当社は通常、健全な競争を歓迎している」と語った。

狙いは東南アジア

起業家ファン・ジンフェン氏が率いる逸仙電商(Yatsen E-Commerce)により国内中心のオンライン企業として創業した完美日記は、現在では中国国内で150カ所以上の実店舗も運営している。目標は国内200店舗、さらに国際展開の野心もある。

「逸仙電商は以前からずっと、真に国際的な影響力を持つ国産美容ブランドを生み出すというビジョンを持っていた」とファン氏はロイターに語った。

完美日記はここ数ヶ月のあいだに、フィリピン、シンガポール、マレーシアなど東南アジア諸国でも独自のオンラインストアを開設した。またアリババの東南アジア事業である「ラザダ」上にも公式ショップを設けた。

「我々はユーザーの声に耳を傾け、求められている製品について直ちに研究を開始する」とファン氏は言い、新型コロナウイルスのパンデミック期間中に収集したデータにより、プレストパウダーの新製品が生まれた例を挙げた。

「マスクで化粧が崩れるので、以前よりも化粧直しを必要とする頻度が上がっている」とファン氏は言う。

完美日記は現在、ミラノで活動するインターコスなどの下請けメーカーを使っている。インターコスは中国国内に工場を持ち、ロレアルなどにも供給している。3月以降、完美日記は広東省で直営工場の建設を進めており、2021年末には操業を開始する予定だ。

IPOは5億ドル規模、時価総額は50億ドルに

完美日記では財務実績や負債を開示しておらず、黒字経営かどうかも明らかにしていない。

すでに高領資本(ヒルハウス・キャピタル)、セコイア・キャピタル、タイガー・グローバル・マネジメント、博裕資本(ボーユー・キャピタル)、華人文化集団(チャイニーズ・カルチャー・グループ)などの出資を受けている逸仙電商だが、事情に詳しい2人の人物によれば、現在プレIPOを進めており、40億ドル程度の評価を得ているという。

また2人の別々の情報提供者によれば、同社は香港でのIPOについてゴールドマン・サックスとモルガン・スタンレーを主幹事に指名し、2020年末までに最大5億ドルを調達することをめざしている。

情報提供者の1人によれば、IPOでの評価額は50億ドルに達する可能性もあるという。巨額ではあるが、株式時価総額1800億ドル以上のロレアルに比べればかなり小さい。

この人物は非公開情報であることを理由に匿名を希望している。完美日記は、IPO計画についてコメントを控えるとしている。

その間にも、学生のウェンさんは自分の完美日記製化粧セットにリップスティックやファンデーションを追加し続けている。「どの国のブランドかはあまり気にしていない」と彼女は言う。

「最初に買ったとき、完美日記が国内ブランドであるとは知らなかった。でも分かってみると、国内ブランドを使っているというのは普通に気分がいい」

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