高すぎる食品スーパーの「労働分配率」問題を解決する、持続可能なビジネスモデルとは!?

中井 彰人 (nakaja lab代表取締役/流通アナリスト)
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コロナ禍の収束とほぼ時を同じくしてきた、デフレからインフレへの環境変化は、食品スーパーにさまざまな課題解決を迫っている。仕入価格の高騰は価格転嫁までのタイムラグを伴うことが避けられないため、粗利益率を引き下げる。人件費高騰は、労働分配率の高い食品スーパーのコスト増大に直結。また、エネルギー価格の上昇は冷凍、冷蔵装置を多く使用する食品スーパーの光熱費の高騰を引き起こしている(記事前編を参照)。こうした減益要因が巣ごもり需要剥落による減収局面で発生しており、まさに“踏んだり蹴ったり”の状況に追い込まれているといってもいい。

Hakase/iStock

労働分配率をどう下げるか

 食品スーパー業界にはどんな環境変化が起きているのか。著しい環境変化が起きた2022年後半期の状況に関しては、食品スーパー協会などの統計データはまだ公表されてはいないため、上場大手企業の2022年度データで見てみる。

 最大手ライフコーポレーション(大阪府:以下、ライフ)は、新店出店を継続し増収基調、かつPBの売上も拡大しているため、2023年2月期の営業総利益は約80億円の増益となったが(新収益基準適用前の数値で比較)、販管費が117億円増加した影響で営業利益は▲37億円の減益となっている。最大手のライフだからこそ、PB販売を強化しつつ出店による増収を達成できたのであろうが、出店の余力が無く、PB比率も低く、これまでの収益水準も低い、という状態のチェーンが人件費・光熱費の高騰に見舞われれば、黒字を維持することさえ難しい。

 ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス(東京都)も概ね似たような状況にあるが、前期に人件費削減が実現されている点はライフとは異なる。しかし、親会社のイオン(千葉県)グループは、3月に時給賃金の7%以上の引上げを公表しており、今後は人件費上昇の原資を確保せねばならない。

 人件費、光熱費の高騰が解消する可能性はほぼなく、今後、地方を中心とした人口減少を要因とした市場縮小が進んでいくとするならば、食品スーパーはいまの収益構造のままでは持続可能性を担保することが難しくなる。これまでの合従連衡による、①インフラ共有によるコスト体質の強化、②PB強化による粗利率の向上、という作戦だけでは、多くの企業はその収益性を保つのが困難になる。

大手チェーンはPC強化に舵

 デフレ環境を前提とした人件費の想定で、パート比率8割弱の構造をベースに設計されてきた食品スーパーのビジネスモデルは、労働分配率が5割前後でもなんとか収益を稼ぐことができたのだろう。しかし、人件費が仮に年5%上昇していくと想定すると、このモデルは破綻してしまう。インフレを前提とするなら、食品スーパーはインストア加工への依存度を下げることで労働分配率を低減しつつ、売上を拡大しつつPB比率を高めて粗利益総額を増やしていくしかないのである。

 労働分配率を下げるためにやるべきことは理屈の上では簡単だ。インストアオペレーションの作業工程を細分化して、可能な限り多くの工程をプロセスセンターに集中することで、店舗での工程を削減すればいいのである。

 実際、先進的業界大手の戦略においては、プロセスセンター(PC)の強化はすでにキーワードとなりつつある。ライフは中期経営計画にインフラとしてPC強化を明確に位置付け、また、サテライトキッチンという小型の複数店の加工工程を担う施設も整備して500㎡店舗への供給も始めている。ヤオコー(埼玉県)もデリカ・生鮮センターの強化を明確に打ち出しており、また、事業部名を「SPA事業部」としたことでも話題になった。

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記事執筆者

中井 彰人 / 株式会社nakaja lab nakaja lab代表取締役/流通アナリスト
みずほ銀行産業調査部シニアアナリスト(12年間)を経て、2016年より流通アナリストとして独立。 2018年3月、株式会社nakaja labを設立、代表取締役に就任、コンサル、執筆、講演等で活動中。 2020年9月Yahoo!ニュース公式コメンテーター就任(2022年よりオーサー兼任)。 2021年8月、技術評論社より著書「図解即戦力 小売業界」発刊。現在、DCSオンライン他、月刊連載4本、及び、マスコミへの知見提供を実施中。起業支援、地方創生支援もライフワークとしている。

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