ビッグデータを制する企業が勝利する理由と、M&Aできない企業が淘汰される事情

河合 拓
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メタバースの世界で新しいクラスターが次々と生み出される

メタバースのイメージ
Khanchit Khirisutchalual/iStock

 さて、なぜ、バブル世代のマーケティングが通用しなくなったのか。なぜ、どのような工夫をしても、プロパー消化率は50%を切らないのか。

 実は、これらの背景には非常に今日的なデジタル社会の影響がある。 

 一昔前、私たちが影響を与えたり受けたりする場所は3つしかなかった。いうまでも無く、「家」、「学校」、「会社」の3つである。

 自宅では人としての基礎ができ、学校では友人との交流が生まれ、ここで新しい価値観が形成される。そして、会社に入り「社会のルール」というものを教えてもらい上司から先輩を尊敬することや、競争のルールや経済・経営などを教えてもらった。

 こうして、人の価値観が生まれ、その過程で結婚相手が見つかり、会社は終身雇用で従業員は20代後半になれば、安心して結婚し家族を持つことができたし、会社の信用を持ってして大きな住宅ローンも組むことができた。

 若干、近所のお隣さんなども、新しい仲間として自分の価値観形成に役立つが、その程度である。だから、裕福な人は裕福な人が集まるエリアに住まい、やはり「年末はハワイ?プーケット?」などという会話の中で生きてゆくし、高校生なら早稲田、慶応は当たり前、第一志望は東大、という具合に自分の人生のルールもおぼろげながらできてくる。

 長々と、バブル時代の人の価値観の形成について話したのは理由がある。このころのマーケティングは極めて簡単だったからだ。例えば、東京、大阪、神戸、京都などの都市は比較的裕福でファッション感度が高い人間が多い、などである。

 私も若い頃は田舎にすんでおり、雑誌「ホットドッグプレス」がバイブルだった。こうした雑誌は、大学さえも「xxx系」とよび、この大学に通っている人は「xxx系」が多い、などと書き、また、それを読んだ人はそのように考え、実際、その大学にはいった人は自分を「xxx系」にしたのである。 

 しかし、こうした「日本人の価値観の形成」を大きく破壊したのがインターネットだ。特にSNSYouTubeInstagramの力は恐ろしい。私も、各種SNSから発信しているが、中国の弁護士が訪ねてきて、一緒にランチをしたし、いきなり「弟子にして欲しい」という若手から連絡がきたばかりだ。

 考えてみれば、私の最近の知り合いは、ほとんどネット経由で知り合った人ばかりだ。

 つまり、我々の「家」、「学校」、「会社」という「リアルの世界」から、「バーチャルの世界」、つまり、メタバース空間で私たちは新しいクラスターをつくっており、メタバースの中で、新しい、そして、それは過去存在しなかった、あるいはあっても排除されていたようなクラスターが、どんどんできてきたのである。 

 これが、デジマを駆使できない人間が、バブル時代の「リアル世界」から「メタバース」の世界の全く新しいクラスターが見えない理由であり、マーチャンダイジングを大きく外す理由だ。

 考えてみて欲しい。今、アプリで男女が出会い結婚することは普通になったが、私たちバブル世代は「アプリで男女が出会う」と聞いただけで、ヘンなことを考えてしまう。

 LGBTQ+もそうだ。「家」、「学校」、「会社」でしか価値観形成ができない場合、自分がLGBTQ+であっても、それを否定しようと苦しんでしまう。しかし、メタバースの世界で様々な人に会えれば、むしろ「自分は普通だったのだ」と、より声も影響力も大きくなり、さらに仲間を増やしてゆく。

 実際、私も世界の見方が独特であり、そのことにコンプレックスを感じていたが、ネットで持論を展開すると、私の主張に賛同してくれる人がどんどん増えていった。これは、デジタル社会がもたらした「メタバース」(仮想空間)の中だから生じた新しいつながりと言っても良い。

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