大丸、三越伊勢丹…誰も語れない百貨店分析 政府の施策が百貨店を殺す「本質的理由」
百貨店小型化に挑んだ大西洋元社長の三越伊勢丹の戦略
私は、改革の道半ばにして失脚した大西洋社長の戦略を高く評価していた。彼は冷静に百貨店の価値と限界を理解し、「百貨店は館の数が半分になることはあっても、倍にはならない。しかし、利益率は倍にできる」と、いわゆる「仕入れ構造改革」を断行した。
もし、百貨店が自前でアパレルのSPA機能を持つことができれば、百貨店の販管費がアパレルに取って代わり、営業利益率が1ケタ代から2ケタに移行することも可能だ。これが仕入れ構造改革の本質だった。さらに、その大きさが出店の制約条件にもなっているため、館を「小型化」し、専門店化して出店すればまだまだ成長は可能であると考えた。
大手町や六本木の「サローネ」という業態がそれにあたり、羽田空港の三越伊勢丹も日本や海外を飛び回るエグゼクティブの憩いの場となっている。大西元社長は、「相手はセレクトショップだ」と静かに、そして、力強く言った。確かにブライダル事業への出資など、やや業態を広げすぎではないかと首をかしげる施策もあったが、当時の現場の人たちは、「ファッションでは絶対に負けない」
三越伊勢丹の人たちは、お客さまの半歩先をゆくことが使命で、お客さまのいうとおりに仕事をすることは恥だと感じていたようだ。当時、シンガポールに「クラブ21」というブランド管理会社があり、アジアで世界中のトップブランドのブランドの版権を持っていた。さらに、いまはセブアンドアイホールディングズが全株式を取得しているバーニーズジャパンは、元々は伊勢丹が米国のバーニーズ・ニューヨークと提携して設立した会社であることはいまや意外としられていないし、サザビーの無敵のブランド、ロンハーマンを作った人間は伊勢丹出身である。まさに、「ファッションの伊勢丹」の名に恥じないものである。
しかし、当時私の懸念は、2つあった。①あまりに多い取締役の数と、機能的重複している組織がいくつもあること、そして、②納入業者であるアパレル企業が企画原価率を20%程度で作っているという事実さえ、三越伊勢丹側が知らない、ということだった。つまり、SPAなどほど遠いレベルで、「ものづくり」が苦手という印象を受けたのだ。そこに、中国の加速度的な経済成長によるインバウンド需要という神風が吹き、業績は好転。さらに、上記の戦略は頓挫したがインバウンド需要が戦略の頓挫を隠し、内乱もあって戦略総括も再構築もなくなってしまったように見えた。
いずれにせよ、百貨店は凋落しているのではなく、単にグローバルのプロポーションに合わせたサイズに戻っているのだけなのだ。したがって、その数が適正値になれば、再び百貨店の価値は向上し存在感をだす。百貨店のデジタル戦略は、百貨店城下町に訪れた人を満足させるために使うのが正しい。
政府の政策が百貨店を殺す
さて、読者と一緒に百貨店の歴史と課題、そして、進むべき方向を考察してきたが、コロナは百貨店の売上の2つの要素、つまり、「インバウンド」と「リアル店舗への集客」を奪ったことになる。だから、政府がいう「リアル店舗は閉めてウエブで稼げ」という指示は、百貨店に死刑宣告をしていることに等しい。
さらに、売上保証の問題でいえば、先にあげたように百貨店の売れている館(やかた)は都市にあり、多くが緊急時代宣言の対象地域である。例えば、世界一の売上を誇る三越伊勢丹新宿店の売上の半分を保証するとなると1000億円以上の金が必要となり、それが都内の全百貨店となると、莫大な保証金が必要となるため、政府は1日20万円などというふざけた休業補償を提示してお茶を濁しているわけだ。
さて、こうした状況の中、私はあえて百貨店、そして、百貨店を主戦場としているアパレル企業の戦略をまとめてこうだということは控えたい。なぜなら、上記にあげた三越伊勢丹の事例のように、生き残り戦略は個別の企業ごとに異なるからである。それぞれが力のあるコンサルタントと組み徹底した議論と調査を行って危機を乗り越える戦略を作り上げ実行してもらいたいと心から願っている。
早くも3刷!河合拓氏の新刊
「生き残るアパレル 死ぬアパレル」好評発売中!
アパレル、小売、企業再建に携わる人の新しい教科書!購入は下記リンクから。
プロフィール
河合 拓(事業再生コンサルタント/ターンアラウンドマネージャー)
ブランド再生、マーケティング戦略など実績多数。国内外のプライベートエクイティファンドに対しての投資アドバイザリ業務、事業評価(ビジネスデューディリジェンス)、事業提携交渉支援、M&A戦略、製品市場戦略など経験豊富。百貨店向けプライベートブランド開発では同社のPBを最高益につなげ、大手レストランチェーン、GMS再生などの実績も多数。東証一部上場企業の社外取締役(~2016年5月まで)
河合拓のアパレル改造論2021 の新着記事
-
2022/01/04
Z世代の衝撃#4 Z世代を追えば敗北必至!取るべきトーキョー・ショールーム・シティ戦略とは -
2021/12/28
Z世代の衝撃#3 既存アパレルが古着を売っても失敗する明確な理由とは -
2021/12/22
インフルエンサー・プラットフォーマー「Tokyo girls market」驚異の戦略とは -
2021/12/21
プラットフォーマー起因の歪な過剰生産が生み出す巨大ビジネス、SheinとShoichi -
2021/12/14
Z世代の衝撃#1 ライブコマースで「インフルエンサー・マーケティング」が失敗する衝撃的理由 -
2021/12/07
TOKYO BASEがZ世代から支持される理由と東京がショールーム都市になる衝撃
この連載の一覧はこちら [56記事]
ファーストリテイリング(ユニクロ),三越伊勢丹の記事ランキング
- 2024-09-27ユニクロが中間価格帯になったことに気づかない茹でガエル産業アパレルの悲劇_過去反響シリーズ
- 2024-01-02勝ち組はSPAではなく「無在庫型」へ 2024年のアパレル、5つの受け入れ難い真実とは
- 2024-10-16「亜熱帯化」でも売上を伸ばすユニクロ、伸び悩むアパレルとの違いとは
- 2024-09-04「AIモデル」起用で売上増!三越伊勢丹が提供する新撮影サービスとは
- 2024-09-12インバウンドで復活!百貨店売上ランキング2024 一人負けは?
- 2023-08-28ユニクロと東レとのサステナブルな関係から生まれたリサイクルダウン
- 2023-12-26「低価格×デザイン」だけではない しまむら好調、もう1つの理由とは
- 2024-02-21ファストリ業績絶好調も…日本の大衆から乖離するユニクロはどこへ行く?
- 2021-11-16「ラルフローレン」と「ユニクロ」が同じである理由とZ世代に対する誤解が生む悲劇
- 2022-01-11ZARAとユニクロだけがなぜ余剰在庫を撲滅できるのか?本人達も気づいていないメカニズムとは
関連記事ランキング
- 2024-10-29ライザップ傘下の夢展望、Temu効果で株価高騰も拭えない「不安」とは
- 2024-10-15利益5000億円越え!世界で圧巻の強さのユニクロが中国で苦戦する理由とは
- 2024-10-22事業再生、「自ら課題解決する」現場に変えるための“生々しい”ノウハウとは
- 2024-09-27ユニクロが中間価格帯になったことに気づかない茹でガエル産業アパレルの悲劇_過去反響シリーズ
- 2024-10-08コンサルの使い方に社長の役割…企業改革でよくある失敗と成功の流儀とは
- 2024-09-17ゴールドウイン、脱ザ・ノース・フェイス依存めざす理由と新戦略の評価
- 2021-11-23ついに最終章!ユニクロのプレミアムブランド「+J」とは結局何だったのか?
- 2024-01-02勝ち組はSPAではなく「無在庫型」へ 2024年のアパレル、5つの受け入れ難い真実とは
- 2024-05-07ユニクロ以外、日本のほとんどのアパレルが儲からなくなった理由
- 2024-10-16「亜熱帯化」でも売上を伸ばすユニクロ、伸び悩むアパレルとの違いとは
関連キーワードの記事を探す
ユニクロがZOZOに出店しない当然の理由と今後のECモールとの付き合い方
ライザップ傘下の夢展望、Temu効果で株価高騰も拭えない「不安」とは
事業再生、「自ら課題解決する」現場に変えるための“生々しい”ノウハウとは
トップ3社のシェア率上昇で52.3%へ 百貨店市場規模&市場占有率2024
【特別編集版】総売上2年連続増加!日本の小売業1000社ランキング2024
日本の小売業1000社ランキング2024、総売上高は過去最高の81.9兆円!
「亜熱帯化」でも売上を伸ばすユニクロ、伸び悩むアパレルとの違いとは
ユニクロが中間価格帯になったことに気づかない茹でガエル産業アパレルの悲劇_過去反響シリーズ
ユニクロの新ライン、「ユニクロ:C」が天下統一ブランドとなる理由_過去反響シリーズ
ユニクロ、ZARA、しまむら、ワークマンを比較!在庫はどこに置くのが正解か?
ユニクロがZOZOに出店しない当然の理由と今後のECモールとの付き合い方
ライザップ傘下の夢展望、Temu効果で株価高騰も拭えない「不安」とは
事業再生、「自ら課題解決する」現場に変えるための“生々しい”ノウハウとは
トップ3社のシェア率上昇で52.3%へ 百貨店市場規模&市場占有率2024
インバウンドで復活!百貨店売上ランキング2024 一人負けは?
「AIモデル」起用で売上増!三越伊勢丹が提供する新撮影サービスとは
外販事業も拡大!自社工場を強みとするクイーンズ伊勢丹のSPA型商品開発戦略とは