死に体なのにアパレル産業の倒産が少ない理由…TOBによる金融主導の業界再編激増

河合 拓 (株式会社FRI & Company ltd..代表)
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私がTOB元年と金融主導を予言できた理由

 私は、自分が得意な流通、小売企業の再建をやりぬくためにはデジタル技術の深い理解が必要だと思い、世界最高のデジタル企業であるIBMで修行を積んだ。しかし、当時、私がみた景色は、DX(デジタル・トランスフォーメーション)などという生やさしいものではなかった。昔から、お付き合いがあったファンドから呼ばれ、アパレル業界の現実を目の当たりにし愕然としたのである。そこは、まさに野戦病院のようだった。半死状態のアパレル企業が次々と担ぎ込まれ、「金をくれ、このままでは死んでしまう」と泣きついている。ある商社などは、まるで八百屋の叩き売りのように、FA (Financial Advisor)によって売られていた。

 銀行は、もう与信オーバーで貸せないという。頼みの綱は、ファンドのようなリスクマネー(投資マネー)だった。当時も今も実はリスクマネーは世界中で余っている。コロナで経済が破壊され、有望な投資先が見つからないからだ。

 企業の資金調達には二種類ある。一つは、借り入れだ。しかし、当たり前だが、借りたお金は返さなければならない。タイミングにもよるが、キャッシュフローがネガティブになる可能性もある。驚くことに、売上100億円を超える企業でも、こうした基本のキが分かっていない経営者がいることだった。

 もう一つは、「投資である」。

 投資というのは、その企業が持っている株を企業価値で割り返した金額で買うことだ。投資を受けた企業は、借り入れのように金を返す必要は無いが、売った株が一定数を超えると会社の支配権を奪われることになる。最悪の場合、その経営者のクビもすげ替えられる可能性もある。なぜなら、増資(投資を受けること)しなければキャッシュフローが回らない状況にしたのは、他ならぬ、その経営者本人だからである。特に、上場している会社は、自由に株が売買されているため、気づいたら自社が乗っ取られそうになっていたということはよくあることだ。しかし、実際は、非上場企業でも、こうしたファンドによる企業買収は盛んに行われている。非上場企業の場合、資金調達の方法が、銀行からの借り入れしか(原則的に)ないからだ。

 そこにコロナ不況がやってきて、キャッシュフローが回らなくなる。当然、企業は、プライベート・エクイティ(非上場企業)ファンドに株を渡すことになる。ファンドは、人様のお金を預かって運用し、必ず増やさねばならない。よく、ファンドのことを「ハゲタカ」などという人いるが、そういう人に限って自宅に帰って投資信託を買っている。その投資信託のお金が増えているのは、ファンドの投資によるものだということを、知っているのだろうか。

 

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記事執筆者

河合 拓 / 株式会社FRI & Company ltd.. 代表

株式会社FRI & Company ltd..代表 Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)。The longreachgroup(投資ファンド)のマネジメントアドバイザを経て、最近はスタートアップ企業のIPO支援、DX戦略などアパレル産業以外に業務は拡大。会社のヴィジョンは小さな総合病院

著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「生き残るアパレル死ぬアパレル」「知らなきゃいけないアパレルの話」。メディア出演:「クローズアップ現代」「ABEMA TV」「海外向け衛星放送Bizbuzz Japan」「テレビ広島」「NHKニュース」。経済産業省有識者会議に出席し産業政策を提言。デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言

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