テクノロジーに振り回されずに「正しいDX」を実践する方法とは
「OMO」をどう考えるか
もう1つ、リアル小売のDXを検討するうえでチェックしておきたいキーワードがある。それが「OMO(Online Mergeswith Offline:オンラインとオフラインの融合)」だ。
小売業界ではかつて、「オムニチャネル」という言葉が流行し、現在は一般的な用語として定着している。OMOとオムニチャネルは似た概念ではあるものの、オムニチャネルが店舗やECサイト、アプリといった小売業が持つ「チャネル」をすべて活用して購買につなげるというマーケティング手法であるのに対し、OMOはオンライン(ECサイトやアプリなど)とオフライン(店舗)をシームレスに統合して、顧客体験を向上させることをめざしている。
具体的なOMOの取り組みとしては、オンラインで注文した商品を店舗で受け取る「BOPIS(Buy Online Pick-up InStore)」、店舗のほか宅配ボックスやドライブスルーなどの「自宅以外の場所」で受け取る「クリック&コレクト」などがある。買物方法の選択肢を増やし顧客の利便性を高めるだけでなく、ネットスーパーやECにおけるラストワンマイルの配送コストを抑制するという点からも注目されているサービスで、海外を中心に広がりを見せている。
国内ではカジュアル衣料大手のアダストリア(東京都/木村治社長)がOMOの先進事例として知られている。「GLOBALWORK(グローバルワーク)」「niko and…(ニコアンド)」「LOWRYS FARM(ローリーズファーム)」など30以上のアパレルブランドを抱える同社は、14年にブランドごとに運営していたECを統合し、公式ECモール「.st(ドットエスティ)」を開設している。この「ドットエスティ」の世界観を表現したOMO型店舗として21年に1号店をオープンしたのが「ドットエスティストア」だ。ドットエスティストアでは既存店よりもBOPISの利用率が高いといったデータが得られており、新たな店舗のかたちとして注目を集めている。
もちろん、すべてのリアル小売がこうしたOMO施策を早急に推進していくべきかというと、そうではない。ここでもやはり、自社にとっての変革、自店の顧客満足とは何かを考え、トランスフォーメーションを実現するための「手段」の1つとしてOMOを検討していくべきだろう。
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原材料費やエネルギーコストの高騰、人手不足など小売の事業環境は厳しさを増していて、「デジタルを使わない」という選択肢はほとんど残されていない。直近では、小売業が持つ顧客データや購買データを使った「リテールメディア」のような新たなビジネスが注目を集めるようになっている。近年はDXが進まない現在の状況を商機ととらえたITベンダーが提案強化に乗り出しており、「自社の変革とは何か」を定めないままでは成果の伴わない投資をし続けることになりかねない。
次々と登場するテクノロジーに振り回されることなく、正しいデジタル投資を行っていくためには、「わが社のDXとは何なのか」という問いに対して明確な答えを持っておく必要がある。本特集を、自社にとっての「DXの本質」を探るために役立てていきたい。
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