第2回 ヘルスケアDXにおける本質的課題とは

郡司 昇
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セルフメディケーションは必要だが、進んでいない

 セルフメディケーションとは、「自分自身の健康に責任を持ち、軽度な身体の不調は自分で手当てすること」(WHOの定義)である。

 国民皆保険制度により医療費の自己負担が軽い日本では、身体の不調を感じたときに医療機関を受診し、医師の指導のもとで治療を行うのが一般的であったが、軽い体調不良や怪我は、市販されている一般用医薬品を使って緩和・予防を行っていくという考え方である。日本が国としてセルフメディケーションを推進していく目的の一つは、医科外来医療費14.6兆円を圧縮していくことにある。また、医療用医薬品ではなく一般用医薬品が使われることで、薬局医療費7.8兆円の保険負担分を軽減することができる。

 ところが、セルフメディケーションは進んでいない。

 厚生労働省の薬事工業生産動態統計年報(令和元年)によると、医薬品最終製品の生産金額は9兆4860億円であり、そのうち一般用医薬品(要指導医薬品含む)の生産金額は8232億円で全体の8.7%にしか過ぎない。

 なぜ、セルフメディケーションは税制も含めた誘導がされているにもかかわらず進まないのだろうか。

 咳で困っている30代女性会社員がいたとする。この女性はいつも使っているECサイトで、「効能・効果」を見て自分で薬を選ぼうとした。ところがどれが自分に合った薬かわからなかった。結果として我慢をして、翌日医師の診察を受けた。

 また、別の人は自分に合った薬がわからずにテレビCMで見聞きしたという基準で咳止め薬をドラッグストアに行って購入した。結果として、咳は抑えることが出来たが、便秘の副作用に悩まされることとなった。

 一般用医薬品の鎮咳去痰薬は約360種類発売されている。ドラッグストア各社で扱っているのはそのうち50~100種類前後である。このうち9割以上の「効能・効果」には「せき・たん」と書かれている。50~360種類の中から自分の症状・体質に合った咳止め薬を選んでセルフメディケーションすることは簡単ではない。

 「セルフメディケーションを推進する」と国が宣言しただけでは、顧客や社会のニーズを叶えることができない。

 ではどうすればよいのか。実現案は第3回で記載する。

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