キャシー松井氏に聞く ビジネスを拡大し続けるためにユニクロが取り組むD&I

北沢 みさ (MK Commerce&Communication代表)
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外部の声を取り入れる健全なガバナンス

 松井氏がファーストリテイリングの社外取締役に就任して、2年近く経つ。創業者一族が大株主であり、柳井正会長というカリスマ性の高い創業者がいまだ現役で全体の指揮を取っている構造の中で、外部からの声はフェアに機能しているのだろうか。

 「驚いたのは、我々社外取締役に対する期待値が非常に高いことです。取締役会では全員が発言しますし、発言がないと、指名で発言を求められます。もちろん、必ずしも皆が柳井正会長に賛同するわけではなく、違う意見が出ることもあります。それらの意見をすべて出して、皆でプラスマイナスを議論したうえで、最終的にこういう方向性に行きましょう、と決定していくプロセスが徹底しているのです。それはある意味、ポジティブなサプライズでした」(松井氏)

 「完璧なガバナンスを持っている会社というのはないかもしれませんが、健全なガバナンスは重要です。少なくともファーストリテイリングには健全的なガバナンスがあります。取締役10名のうち過半数の6名が社外取締役だというバランスも、健全なガバナンスに必要なことで、何のために社外取締役が存在しているのかということを、よく理解している会社だと思います」(松井氏)

  そして、なにより松井氏の存在そのものが、ファーストリテイリングの取締役会にとってのダイバーシティ(多様性)だと言える。

 それまで、ファーストリテイリングの取締役会は100%日本人男性だった。そこに、人種としては日本人でありながら、育った環境はアメリカという、日系アメリカ人女性である松井氏が加わった。外部のパースペクティブ(さまざまな立場からの視点や考え方)を取り入れるのに、これ以上ない人選だったのではないだろうか。

D&Iのゴールは、優秀な人材に選ばれる企業になること

 ファーストリテイリングではダイバーシティの部署が社長室に直結している。このことは非常に大きな意味がある、と松井氏は言う。D&Iを事業のコアに位置付けているということが、目に見えるわけだ。

 「企業がD&Iの活動に取り組む一番の目的は、最も優れた人材に選ばれる企業となることです。英語ではEmployer of choice(選ばれる雇用主)という言い方があります。優秀な人材は必ずしも名門大学を出ているとか、社会的な地位があるということではありません。様々なバックグラウンドの人たちが働きやすく、個々の人のポテンシャルを生かせるような組織でないといけないのです。特に小売業にとって、最大の資源は人材です。一番優秀な人材にこの組織に来てもらい、長く働いてもらって、ビジネスを拡大し続けるということが、D&Iのゴールだと思います」(松井氏)

 企業によっては、余力があればD&Iにも取り組みたいが、いまはその余裕がないというところもある。事業の調子がいい時はやるが、調子が悪くなったら優先順位が下がるというわけだ。しかし、松井氏はそれは逆だと指摘する。

 「D&Iは、Nice to have(あった方がいい)というものではなく、これからのビジネスに不可欠なことなのです。あらゆる経営者は、もっと早くそこに気づかないといけないと思います。D&Iに取り組むことによって、よりイノベーティブな商品やマーケティング戦略ができる、イノベーションからさらなるビジネスを生むという、経済合理性から必要なことです」(松井氏)

キャシー松井氏

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記事執筆者

北沢 みさ / MK Commerce&Communication代表

東京都出身、日本橋在住。早稲田大学第一文学部卒業。
メーカーのマーケティング担当、TV局のプロデューサーの経験を経て、
1999年大手SPA企業に入社しマーケティング・PRを12年、EC・WEBマーケティングを8年担当し、ブランドの急成長に寄与。
2018年に独立後は、30年に渡る実務経験を活かし、小売・アパレル業界を中心に複数企業のアドバイザーとして、マーケティングおよびEC業務を支援中。

 

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