ファーストリテイリングと国連難民高等弁務官事務所との、知られざるパートナーシップ

北沢 みさ (MK Commerce&Communication代表)
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全社員巻き込み型の難民支援

 ファーストリテイリングで難民キャンプでの衣料配布に行くのは、サステナビリティ部のメンバーだけではない。年10人程度、本部社員や店舗のスタッフが参加している。そして、実際に難民キャンプの人たちの生活が見えると、難民問題に対して自分のできることがないか考え、行動し始めるという。

 「多くのパートナー企業様は、難民支援の現場に自ら行くことは少ないですし、行ってもサステナビリティ担当部署の方に限られます。ファーストリテイリングさんのように社内のあらゆる部署の方が参加されるというのは、他の企業様と大きく違うところだと思います。そして、日本に帰ってからも、自分たちができることを考えてくださっています。私が名刺交換したファーストリテイリンググループの社員の方は、すでに80人以上になっています」(櫻井氏)

 参加者は帰国後、店長であれば率先して日本にいる難民を雇用するようになったり、店舗スタッフであれば衣料品回収が進むようお客様への声がけを積極的にするようになったりと、自身の担当業務の中での行動が変わる。

 そして、参加したスタッフがいずれ店長になり、ブロックリーダーになり、海外の事業責任者になり、社内で活躍の場を広げていくにつれ、難民問題への意識がより多くの従業員に伝播していくことになる。

難民キャンプでの衣料配付の様子

全社が関わらないと、本当の支援はできない 

 UNHCRのパートナー企業への活動報告も、通常はサステナビリティ担当部署に報告書を提出するのみだが、ファーストリテイリングに対しては定期的に従業員向けの勉強会という形で行っている。それが、同時に難民問題についての啓蒙活動にもなっている。もちろん、はじめからそういう体制だったわけではなく、これも何年もかけて、社内に働きかけ変えてきたことだ。

 「たとえば難民の自立支援事業の一環で、昨年からバングラデシュで女性用の生理用品を作る技術指導を始めました。そうした取り組みは、生産部やデザイナーに参加してもらわないと実現できませんし、物を運ぶには当然物流部に協力してもらわないといけない。サステナビリティの部署のメンバーだけで実現できることは少ないんです。全社が関わらないと、本当の支援はできないということです。ですから、常に社内の色々な部署の人に関心を持ってもらって、自分の専門領域の中で何ができるのかを考えてもらうようにしないといけないと思っています」(シェルバ氏)

ファーストリテイリング広報部部長のシェルバ英子氏

 「ファーストリテイリングの社員の皆様の反応を見て取れると、私たちもとても励みになりますし、しっかりやらなくちゃ、と気持ちが引き締まります。先日の勉強会でも、難民支援のためのチャリティーTシャツのご担当者からお声をいただきました。その日はチャリティーのお金が何に使われたのか報告したので、『そうやって役に立っているんですね。これからも頑張ります』と言っていただきました。自分たちの活動が、社員の皆様のモチベーションにつながるのであれば、私たちもとっても嬉しいことです」(櫻井氏)

 誰でも、自分の仕事には熱意や使命感を持っている。自分でやった仕事がどこかで誰かの役に立っている、あるいはもっと人の役に立てることがある、ということを知るのは、喜びであり、誇りに他ならない。お互いにその喜びや誇りを分かち合うところに、ファーストリテイリングとUNHCRのパートナーシップの原点があるのではないかと思う。

 次回は、7月18日掲載。難民支援について、ファーストリテイリング柳井正社長の考えを取材した。

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記事執筆者

北沢 みさ / MK Commerce&Communication代表

東京都出身、日本橋在住。早稲田大学第一文学部卒業。
メーカーのマーケティング担当、TV局のプロデューサーの経験を経て、
1999年大手SPA企業に入社しマーケティング・PRを12年、EC・WEBマーケティングを8年担当し、ブランドの急成長に寄与。
2018年に独立後は、30年に渡る実務経験を活かし、小売・アパレル業界を中心に複数企業のアドバイザーとして、マーケティングおよびEC業務を支援中。

 

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