小売業優勝劣敗の本質は「チャネル間格差の拡大」にある理由

青木英彦:東京理科大学大学院教授
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名経営者とは

 私は、1989年の大学卒業以来、足掛け31年間にわたって国内外小売業界を担当する証券アナリスト業務に従事してきた。証券アナリストは、中長期的な業績の見通しをベースとして、適正な企業価値を算出し、現在の株価を評価することを生業とする。中長期的な業績を予想するためには、足元業績の確認のみならず、その企業の寄って立つ経営哲学、経営戦略の巧拙や実践力についてのトラックレコード、今後の戦略方向性といった経営の意思、経営環境の評価などを適切に理解したうえで、これらの要素を中長期的な業績に落とし込んでいかなければならない。

 大変幸運なことに、私は92年から94年にかけて米国のビジネススクールにて学ぶ機会を得て、経営学がどのように実務界に落とし込まれているのかを目の当たりにすることができた。また、96年から2000年にかけては、実際に米国の小売業、消費財メーカー、Eコマースベンチャー(アマゾン、ウェッブバン、eBay、Peapod、Pricelineなど)を担当し、経営学がどのように米国小売業・消費財業界の経営に影響を与えているのかを垣間見ることができた。

経営 イメージ
本シリーズでは、世界各国で起こった流通業界におけるイノベーションを取り上げ、その本質を抽象化してご紹介したあと、日本の流通業界においてこのイノベーションを実現するために解決しなければならない業界構造上の課題を分析したい (i-stock/metamorworks)

 私が、これらの学修・業務経験から学んだことを一言でいうと、「経営は具体と抽象の往復運動である」ということだ。個別具体のさまざまな事象を世界中の経営学者が観察・分析し、その本質を考察する知の蓄積が、一般的(=抽象的)な経営学の知見として蓄積されている。一方、知見を学んだ経営者が、それを自社の経営に当てはめようとするとき、自社に固有の個別(=具体的)事象の前に立ち尽くし、必ずしも一般解がそのまま現場・現実での個別解とはならないことを思い知る。多くの経営者が、「経営学は役に立たない」と発言することも、残念なことではあるけれども、致し方ない面もあろうかと思う。

 名経営者とは、常にこの抽象的な知見と、目の前にある個別事象の間を往復しながら、

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