カゴメ 代表取締役社長 寺田 直行
多様な選択肢を提供し、野菜不足をゼロにする!

聞き手=下田健司
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──調味料についてはいかがですか。

寺田 今年5月、「カゴメナポリタンスタジアム2017」というイベントを東京スカイツリーで開催しました。地区予選を通過した全国の選りすぐりの9店舗でグランプリを競うという試みで、今年が2回目の開催です。地域の食材を使った、いわばご当地ナポリタンが本選に残り、グランプリをとったのは熊本のあか牛を使ったナポリタンでした。ソーシャルメディアで情報を広めたことで地区予選から盛り上がり、本選では1万3000食のナポリタンを提供しました。こうしたイベントを通じて、家庭の食卓におけるナポリタンの出現頻度が上昇しました。また最近では居酒屋でも締めのナポリタンというメニューが登場してきたりしています。その結果、トマトケチャップの消費量も伸びており、上期の売上高は対前期比102%でした。

食を通じて社会問題を解決、持続的成長に結びつける

──消費の多様化にどう対応しますか。

寺田 人口減少、超高齢化、労働人口の減少、働く女性の増加、単身・共働き世帯数の増加、といった社会構造の変化に伴い、「健康」「個食」「時短・簡便」など消費者の求める価値が多様化していると言われます。しかし、顕在化した消費者ニーズに企業が対応しているのではなく、実態は企業側がイノベーションとソリューションによって、多様な選択肢を消費者に提供していると言ったほうが正しいのではないでしょうか。

 コンビニエンスストア(CVS)のコーヒーは、CVSのコーヒーを飲みたいというお客さまのニーズがあったからではなく、CVS側が選択肢の1つとして提供し、それが受け入れられていったということでしょう。変化への対応というより、むしろ先取りですね。私どもも多様な選択肢をお客さまに提供できるように仕掛けていかなければなりません。パイは縮小していきますから、これまでのように、いい商品をつくりさえすればお客さまの支持を得られるというわけにはいかなくなります。

──どのように多様な選択肢を提供しますか。

寺田 私どもは「トマトの会社から、野菜の会社に。」という長期ビジョンを掲げています。当社は14年12月期に2期連続減収減益に陥りました。14年1月に社長に就き、マーケティングや営業でのキャリアを通じて、業績が伸び悩んでいる原因がどこにあるのかを考えました。ひと言で言うと、それは変化に疎いということでした。当社にはものづくりへの強いこだわりがあります。しかし、それだけでは変化に弱い。変化に強くなるにはどうしたらいいかを考えた結果、先取りすることだという結論に至ったわけです。

 15年に国内の10年後の市場を予測したところ、さまざまな社会問題が深刻化しているという結論に至りました。その中でカゴメのビジネス領域に密接にかかわっている最大の課題は、健康寿命の延伸です。

 「食を通じて社会問題の解決に取り組み、持続的に成長できる強い企業になる」というのが、15年につくり上げた10年後のカゴメ像です。これを具体的な事業イメージとして表現したのが、昨年つくった「トマトの会社から、野菜の会社に。」です。トマトをはじめとするさまざまな野菜を、多様な商品形態・メニューで提供できる会社になりたいという意味を込めています。

 解決すべき社会課題には「農業振興」もあります。当社には、カゴメブランドの生鮮トマトを生産してくださる菜園が全国に約50カ所あります。これらの拠点をベースに農業活性化に貢献していくことが可能です。さらに、「地域経済の活性化」も当社が取り組むべき課題です。農業振興と地域経済の活性化は密接にかかわってくるからです。健康寿命の延伸、農業振興、そして地域経済の活性化、この3つの課題解決に食を通じて取り組んでいきたいと考えています。

──農業振興、地域経済の活性化の具体的な取り組みはありますか。

寺田 当社の生鮮事業は100億円を超える規模になっていますが、事業規模をさらに拡大していくためには、生鮮トマトの生産拠点を増やす必要があります。そのため、新たに農業参入する菜園に対しては、私どもがそのサポートを担うことも考えられます。当社は現在、生鮮トマトに限りますが、アグリビジネスサポート事業を進めており、菜園に対して栽培指導を行い、できたトマトを当社が全量買い取り、販売することを行っています。一方、新たな野菜としてベビーリーフにも注力していきます。山梨県の北杜市に自社菜園を構えており、現在、出荷に向けて準備を進めています。日本におけるベビーリーフの市場はまだ小規模ですが、欧米ではすでに一定の市場規模に達しています。日本でもその価値を伝えて、市場を創造していきたいと思っています。

 地域経済の活性化の取り組みでは、当社の野菜飲料を製造する長野県諏訪郡富士見町の工場の隣接地に「カゴメ野菜生活ファーム富士見」という野菜のテーマパークを建設する予定です。休耕地を有効活用し、新設する「八ヶ岳みらい菜園」でトマトや高原野菜を栽培します。自然の中で農作業や収穫の体験、工場見学、レストランでの食事が楽しめる農・工・観一体の施設となります。19年春頃の開業を予定しており、多くの消費者に体験を通じてカゴメのファンになっていただきたいと考えています。こうした取り組みを通じて地域経済の活性化に貢献できると思っています。

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