なぜあなたの会社は利益が出ないのか? 間違ったKPIが企業を窮地に追い込む実態
最後が企画原価率 (調達原価率)

4KPIの最後が、企画原価率、またの名を「調達原価率」である。これは、MDにとっては利益計画上極めて重要な指標であり、調達部・生産部にとっては守るべき憲法のようなものだ。
例えば、正規上代が1万円の商品投入をするとする。MDは
しかし、この企画原価率は運用上注意が必要で、例えば、アパレル企業の多くの損益計算書を見れば、原価率は50%-60%程度となっている。これに対し、企画段階の原価率は百貨店ビジネスであれば25%前後、ショッピングセンターであれば35%前後だ。これを、いわゆる「商社外し」によって、商社の通し口銭を下げるわけだが、あまりやり過ぎると、商品品質が激しく落ちてくる。例えば、百貨店ビジネスの場合企画減価率の5倍が上代だから、企画減価率を5ポイント下げれば、上代換算すれば25%も価格が変わってくることになる。具体的に言えば、10,000円の商品が7,500円の商品になるわけだ(商品コスパが変わらないという前提で)
加えていうなら、コスト削減ばかりやっている企業のP/L変調主義は、企業を窮地に追い込むこともある。例えば、ある世界的高収益企業の企画原価率は45%前後だし、一般的な雑貨もそうだ。両者に共通するのは、損金処理までの期間が長いということである。当然、在庫として倉庫に何年も眠っているわけだからキャッシュフローは悪化するし、昨今、アパレルは直貿化を進めているため、商社金融を使わず先んじて素材を買い付けるということもやっている。
こうしたことがダブルパンチとなって、損益計算書も貸借対照表も綺麗になるが、キャッシュフローが悪化するということになるわけだ。しかし、ここは、再三述べているように、さまざまなファイナンススキームによって解決は可能だ。先進的な企業は、こうした商品調達から販売、マーケティングや利益計画に財務部を参画させ、あらゆるファイナンススキームを駆使し、あるいは、資金調達にあらかじめ、こうした在庫品の流動化を組み込んでいる。
4KPIは、私が業績不振に陥った企業で最初に行う事業評価の指標である。あえて、丁寧に書いたのは、あまりに短絡的に解決案に飛びつく業界の先行きを案じてのこととご理解いただきたい。「ハイテクを使って来年のMD計画が見事的中。余剰在庫は劇的に削減」などという言葉に踊らされてはならない。世の中の動きとプロセスの見直し、財務戦略と業務戦略の融合など、基本の中に真実がある。ハイテク活用は、その後の話だ。
プロフィール
河合 拓(事業再生コンサルタント/ターンアラウンドマネージャー)
ブランド再生、マーケティング戦略など実績多数。国内外のプライベートエクイティファンドに対しての投資アドバイザリ業務、事業評価(ビジネスデューディリジェンス)、事業提携交渉支援、M&A戦略、製品市場戦略など経験豊富。百貨店向けプライベートブランド開発では同社のPBを最高益につなげ、大手レストランチェーン、GMS再生などの実績も多数。東証一部上場企業の社外取締役(~2016年5月まで)
河合拓のアパレル改造論2021 の新着記事
-
2022/01/04
Z世代の衝撃#4 Z世代を追えば敗北必至!取るべきトーキョー・ショールーム・シティ戦略とは -
2021/12/28
Z世代の衝撃#3 既存アパレルが古着を売っても失敗する明確な理由とは -
2021/12/22
インフルエンサー・プラットフォーマー「Tokyo girls market」驚異の戦略とは -
2021/12/21
プラットフォーマー起因の歪な過剰生産が生み出す巨大ビジネス、SheinとShoichi -
2021/12/14
Z世代の衝撃#1 ライブコマースで「インフルエンサー・マーケティング」が失敗する衝撃的理由 -
2021/12/07
TOKYO BASEがZ世代から支持される理由と東京がショールーム都市になる衝撃
この連載の一覧はこちら [56記事]
ファーストリテイリング(ユニクロ)の記事ランキング
- 2025-03-12ユニクロ以外、日本のほとんどのアパレルが儲からなくなった理由_過去反響シリーズ
- 2024-09-03アローズにビームス…セレクトショップの未来とめざすべき新ビジネスとは
- 2025-11-04ユニクロの「棚割り」に見るインクルーシブMDへの“覚悟”
- 2021-03-05ビジネスは「一勝九敗」 ファーストリテイリングを世界的大企業に導いた“柳井哲学”
- 2022-11-29シーイン模倣騒動と大差ないアパレル業界のパクリ体質 シーインがそれでも勝つ理由
- 2021-05-11キーワードは科学、製販統合!「無敵のユニクロ」を凌駕する「知る人ぞ知る」ファッション商品
- 2023-08-28ユニクロと東レとのサステナブルな関係から生まれたリサイクルダウン
- 2023-11-14GMS衣料のジレンマと真実!イトーヨーカ堂アパレル完全撤退の必然とは
- 2024-09-27ユニクロが中間価格帯になったことに気づかない茹でガエル産業アパレルの悲劇_過去反響シリーズ
- 2024-11-07同じ低価格なのに…GUがしまむらやワークマンと「競合」しない決定的な理由_過去反響シリーズ
関連記事ランキング
- 2025-12-02HUMAN MADE上場から考えるファッション産業の構造的限界
- 2025-11-25ワコールを追い詰めた「三つの革命」
- 2025-03-12ユニクロ以外、日本のほとんどのアパレルが儲からなくなった理由_過去反響シリーズ
- 2025-11-27急拡大するリカバリーウエア市場を攻略する
- 2024-09-17ゴールドウイン、脱ザ・ノース・フェイス依存めざす理由と新戦略の評価
- 2025-11-24間違いだらけのアパレルDX改革、根本から変えるべき「KPIの設計哲学」
- 2025-11-26業態別 主要店舗月次実績=2025年10月度
- 2021-11-23ついに最終章!ユニクロのプレミアムブランド「+J」とは結局何だったのか?
- 2024-09-03アローズにビームス…セレクトショップの未来とめざすべき新ビジネスとは
- 2023-08-08EC時代にスクロールとベルーナだけ好調 生き残るカタログ通販、死ぬカタログ通販
関連キーワードの記事を探す
国内ユニクロ事業が売上収益1兆円を突破 ファーストリテイリング本決算を徹底分析
アパレル売上ランキング2025 ファストリの売上高3兆円台に!
百貨店を生活商圏型SCに転換!「ららテラス川口」の全貌と戦略とは?
大胆な発想の転換が必要な時代 ECとQRに対する大きな誤解と新戦略
大パラダイム変化のアパレル、今までとは次元の違う発想が必用な理由
アパレルの離職率低下のためにすべきこと、やってはいけないこととは





前の記事
