なぜあなたの会社は利益が出ないのか? 間違ったKPIが企業を窮地に追い込む実態

河合 拓 (株式会社FRI & Company ltd..代表)
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あえて「オフ率」経営上の重要指標にする理由

Reuters sale
「オフ率」を経営上の重要指標として扱う(写真はロイター)

 次に、「オフ率」について語りたい。オフ率とは、産業界ではKPIとして使われておらず、例えば、セール時期に「オフ率は30%だ」など、「ディスカウントレート」と同義語で使われていることが多い。いわゆるマネジメントKPIではない。 

 マネジメントKPIとは、常に、そのKPIに意味を持たせ、経年や計画対比で差異が生じた場合、その原因はどこにあるのか、あるいは、何が問題なのかの病状をしるために活用するものだ。

 しかし、私がこの「オフ率」をマネジメントKPIに昇格させたのには理由がある。それは、プロパー価格で売れなかった商品は、放っておくとやがて鮮度品としての価値が下がり、最終的には特損(特別損失)として、大きな赤字を生み出す原因となるからだ。実際、俗に言われる「V字回復」をアパレルビジネスに当てはめるなら、日本中に散らばっている鮮度切れの在庫を一気に特損として計上し、バランスシートを正常化し、そこまで余剰在庫を溜め込んだMD(商品政策)オペレーションを改善して収益体質に持って行くことをいう。

 もちろん例外的に、メゾンと呼ばれるスーパーブランドは値下げをせず、余った在庫は無理に「換金」せず、正規販売品の原価の歩留まりに最初から計上し、定価を大きく上げてブランド価値を保つという特殊なケースもある。

 しかし、一般的には、「プロパー価格」で販売できなかった半余剰在庫(値引きをすれば売れるものと値引きをしても売れないものが含まれているという意味)については、できるだけ早く「換金」し、キャッシュフローを良化させるやりかたが一般的である。つまり、「オフ率」とは、プロパーで売れなかった商品の「換金変数」として、どの程度のディスカウントを行えば現金に変わるのかという指標たり得るわけだ。ある一定のところまでディスカウントレートを下げれば、消費者は買ってくれるという前提で、企業は可能な限り「オフ率」を低く(値引きをしない)目標値として設定し、その範囲で、プロパーで売れなかった商品を「換金」することになる。

したがって、「オフ率」とは、

”非”正規価格売上 ÷ (総投入)正規販売売上見合い

 と考えるのが最も合理的だろう。

 つまり、プロパーで売れなかった在庫を分母にし、その残在庫をシーズン内で何%ディスカウントすれば、これ以上換金できないところまで来るのかという指標となるはずだ。こうすれば、年度別の比較が可能となる

  しかし、ほとんどの企業ではオフ率をマネジメントKPIにしていないし、仮にしていたとしても、同じ目的にも拘らず分母は総投入金額である。つまり、正規価格で完売すれば1000万円だった総投入量を100%とし、実売売上が700万円だったため「オフ率は30%だった」という考え方で会話、分析をしている。このやり方には致命的な欠陥がある。説明しよう。

  私が提唱する手法は、分母はあくまで「プロパー販売で売れなかった在庫金額の総数」である。理由は2つあり、一つは上記通り「売れ残り商品の換金率最大化のための最小値引率」がキャッシュフロー上最も重要だからである。もう一つは、仮に総投入量の正規価格売上見合いを分母にしてしまうと、プロパー消化率が、例えば30%の場合と70%の場合では、その意味合いが全く違ってくるため評価指標として使えないからだ。

  仮に、総投入の正規価格売上見合いを分母に「オフ率」を使った場合、プロパー消化率が70%オフ率が30%だった場、最終消化率は100%となり、プロパー消化率が30%オフ率が30%だった場合プロパーで売れなかった総投入量の70%がどの程度のディスカウントレートで「換金率最大化、オフ率最小化」になったのか瞬時に計算できる人は相当数学の得意な人だけで、ほとんどの人は自社商品の換金変数がどの程度なのか計算できないだろう。

  また、そもそも、2つの指標を組み合わせなければ、その意味合いが分からないというのであれば使い勝手は極めて悪い。ここは、ロジカルに考えても実務の流れに沿っても、プロパーで売れなかった在庫総数を分母とし、「換金率最大化、オフ率最小化」の臨界点を判断する材料として使うべきだ。

  加えていうなら、私はファミリーセールやバッタ屋(いわゆる安売り小売業)、さらに福袋にいたるまで、「換金」可能なものはすべて、「オフ率」に組み込むべきだと言っていることもおわかりだろう。しかし、産業界では、せいぜいアウトレットまでが「オフ率」で、そこから先のファミリーセールや福袋は、“処分“ という、一体、何を分析したいのか意味不明な分類学で別名を使って「オフ率」とわけている企業が多い。

 私は、お金に換えられる以上、「換金変数」としての機能は果たしているし、これらも全て「オフ率」に組み込む方がよほどシンプルだと思う。

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記事執筆者

河合 拓 / 株式会社FRI & Company ltd.. 代表

株式会社FRI & Company ltd..代表 Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)。The longreachgroup(投資ファンド)のマネジメントアドバイザを経て、最近はスタートアップ企業のIPO支援、DX戦略などアパレル産業以外に業務は拡大。会社のヴィジョンは小さな総合病院

著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「生き残るアパレル死ぬアパレル」「知らなきゃいけないアパレルの話」。メディア出演:「クローズアップ現代」「ABEMA TV」「海外向け衛星放送Bizbuzz Japan」「テレビ広島」「NHKニュース」。経済産業省有識者会議に出席し産業政策を提言。デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言

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