キーワードは科学、製販統合!「無敵のユニクロ」を凌駕する「知る人ぞ知る」ファッション商品
ワコール 睡眠科学 パジャマ
最後に紹介するのは、ワコールの睡眠科学 パジャマである。日本で世界一のアパレルといえば、真っ先に思い浮かぶのはユニクロだが、実はもう一社日本にも世界に誇るアパレル企業ある。それがワコールである。
ワコールの売上高は、コスト重視ではなく研究開発に力を入れた品質重視の商品で主販路が量販店ではなく百貨店だったこともあり、連結ベースで3000億円程度だ。だが、米国のアンダーウエアの大手、ヴィクトリアズシークレットの破綻により売上世界一に躍り出たのである。
同社の最大の強みであり特徴は、世界最強の研究機関、「人間科学研究所」である。アパレルメーカーの研究開発といえば、せいぜいデザイナーなどが集まって、「こういうものがあったらいいよね」と言って、寄せ集めのものを作る程度だが、ワコールは違う。この「人間科学研究所」は、大学やシンクタンクと結びつき、誰もが持ちたくても持ち得ない人間のカラダデータを持っている。例えば、数だけでいえば、ワコール以上のデータを持っている企業は存在するが、ワコールは一人の人間の数十年分のカラダの変化を追いかけてデータベース化しており、この「時間の長さ」は、物理的に競合が追いつくことはできない。
この人間科学研究所のカラダの変化データは、女性の一生をモデル化したものだ。これを活用してLTV (Lifetime value 人が一生涯に払うお金の総額のこと)を最大化し、3D Smart & Tryという、体系の自動計測器を開発。アバターという親しみやすいキャラクターをを利用した接客でカラダを触られたくないという女性心理に応え、その人だけの下着を提案するなど、デジタル化にも積極取り組みもしている。ワコールは、ピーチジョン、三愛(水着、下着)、英国のイヴィデンなどを次々と買収、黒字化、成長させるなど再生ノウハウも持ち合わせている。
話を、パジャマに戻すと(私は男性なので、女性のブラジャー、ショーツに関する評価ができないことをご了承いただきたい)、最近の巣篭もり消費から、ネットフリックスで韓流ドラマばかり見ていることもあり、その影響もあってワコールのパジャマを買ったのだが、そのパジャマが素晴らしい。
ユニクロや無印良品のジャージパジャマのような締め付けられる感覚がなく、布団の中で開放感に包まれ寝返りをうっても動いてもカラダの一部も苦しいところはない。「パジャマを着ることはマナーの一つだと思っていたのだが、、パジャマを着ることで、これほど快眠に誘われるのか」と驚きを禁じ得なかった。それ以来、私は下着も全てワコールだ。お恥ずかしい話だが、50歳を過ぎるとお腹が出てくる。ユニクロや無印良品の男性下着はお腹を締め付けて苦しいのだが、ワコールのそれはデザイン的にお腹を締め付けることはなく、非常に良い案配に伸びる素材を使っており、ピッタリと苦しさなく下半身を固定してくれる。スポーツ科学と下着が融合された一品だ。
さて今回は、ユニクロのように膨大な広告宣伝費を使えない、あるいは、使わないため、われわれ一般消費者の目に留まりにくい「隠れた名品」をご紹介した。これらは、デザイナーたちが感覚的に「格好よい」だの、どうだのと評するレベルのものでない。その商品の裏に骨太な科学があることが競争優位となっている。
今や、圧倒的にはるか彼方にいってしまったユニクロに売上で追いつくことは不可能だが、隠れた名品を梃子に、これらの企業が同社に一泡吹かせることは十分可能だと私は思う。PBといえば、ナショナルブランドのまがいもの、安物というイメージがあるが、私が過去から提唱している製販統合(SPA)が実現すれば、かくも素晴らしい商品が出来上がるのだ。これこそ、SPAの醍醐味であり、アパレル企業を破滅に追いやるコスト競争から抜け出す一手であるとご認識いただきたい。
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プロフィール
河合 拓(事業再生コンサルタント/ターンアラウンドマネージャー)
ブランド再生、マーケティング戦略など実績多数。国内外のプライベートエクイティファンドに対しての投資アドバイザリ業務、事業評価(ビジネスデューディリジェンス)、事業提携交渉支援、M&A戦略、製品市場戦略など経験豊富。百貨店向けプライベートブランド開発では同社のPBを最高益につなげ、大手レストランチェーン、GMS再生などの実績も多数。東証一部上場企業の社外取締役(~2016年5月まで)
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