キーワードは科学、製販統合!「無敵のユニクロ」を凌駕する「知る人ぞ知る」ファッション商品

河合 拓
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丸井のラクチンきれいパンプス(Velikoko

丸井の楽ちんパンプス(Velikoko)
丸井のラクチンきれいパンプス(Velikoko)

 次に紹介したいのは、マルイのVelikokoである。人によっては「ラクチンきれいパンプス」といった方がわかりやすいかもしれないが、「ラクチンきれいパンプス」というのは、売場の名称で、丸井のプライベートブランド(PB)はVelikokoだ。ラクチンきれいパンプスは、現在主流となっているコンフォートシューズの先駆けともいるもので、2010年に静かに同社のウエブページに登場した。

  このVelikokoは、いわゆる今までの既成概念を全て破って開発した革新的なシューズだった。Velikokoが世に出るまでは、「履き心地」などという曖昧模糊としたものに本格的に取り組んでいるレディースシューズはなかった。「革を使えば良くなる」、「イタリアの職人の魔法の木型の一削りが履き心地を左右する」などから、中には、「シャンク(靴の中に入れる鉄)が日本刀の硬さになれば履き心地は良くなる」など、嘘くさい神話ばかりがハイライトされていた。また、今でも3D 計測などを使って同じ過ちをしており、足は動くという基本的なことを蔑ろにし、止まっている足のサイズにぴったりのものができれば履き心地は良くなる、などと考えられている。こうした、思考停止に陥った企業とは一線を画したプロジェクトが進められた。

 実際、足が動く場合、甲の部分が大きく開いているデザインであれば締め付けられる感じがしない、あるいは、ラストがつま先に向かって落ち込んでいると、足が前に滑り落ちて外反母趾になるため、カカトに向かって若干傾斜を入れると解決するなど、足の動きとデザインのバランスが重要なのだ。

 丸井のVelikokoは、医学的根拠を研究し、社長直下に「デジマ」(拙著ブランドで競争する技術を参照)を作り、米国で急成長していたザッポス(Zappos.com)を徹底調査。階段をなんども上り下りし、走ったり、数週間歩いたりして、「足は動く」という観点から人体工学の観点から「マルイラスト:木型 靴の形を形成する重要なもの)」を開発した。

 さらに、「革でなければ履き心地は良くならない」という業界の非科学的な常識も覆した。よく考えてみれば、ケミカル素材を使った方が生産も物性も安定するし、柔らかさもコントロールできるためむしろ履き心地は良くなる。このように、合理的に業界の常識を一つずつ打ち破りVelikokoを開発した。

 静態的データでぴったりのサイズのものを作っても履き心地は良くならない。歩きながら人の足には様々な角度から絶えずストレスがかかるからだ。だから、デザイン上の工夫や、一切のサイズ上の遊びがないパンプスなどは全く役に立たないわけだが、丸井は今から10年も前に動態的データをベースに業界常識を打ち破りVelikokoをリリースした。

 当時を覚えているが、ウェブで「今日の累計販売数量は何足」という具合に販売数量をみせ、その数字が日ごとにぐんぐん上がってゆくのを見て驚いたものだった。今となっては、モノマネ業界であるアパレル産業で、コンフォートシューズはデファクトになり、猫も杓子も「履き心地」になってしまったが、丸井より前は「履き心地」は神話化され科学的アプローチで履き心地の本質を解明しようとした靴はなかった。イタリアのデザインは、単に格好良い悪いでなく、機能美ともいえる使いやすさと美しさを両立したデザインを作る。丸井は、徹底した調査と科学的アプローチで、デザイン、履き心地、お手頃価格のミックスこそ差別化の源泉であるとしイノベーションを起こした。同社のVelikokoは、日本経営研究所の成功事例として研究テーマに選ばれた。

 ユニクロもパンプスを出しているが、おそらく、ここまでの研究開発を行っているわけではないと思う。むしろユニクロの得意技は、「ゲームチェンジ」だろう。例えば、ブラトップのように、サイズという女性のアンダーウエアであるブラジャーの世界から女性を解放し、「開放感」という新しい価値を出すなど全く異なる切り口で商品開発を行うことである。

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