キーワードは科学、製販統合!「無敵のユニクロ」を凌駕する「知る人ぞ知る」ファッション商品

河合 拓 (株式会社FRI & Company ltd..代表)
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 論理的に考えて、企業経営に致命傷ともいえるインパクトを与える余剰在庫の極小化のための「在庫管理領域」は究極的には一つがよいに決まっている。いわゆる「在庫の一元化」だ。実際は、立地によって在庫管理単位(在庫倉庫)は分散化されるが、例えば日本に3000店舗を展開しているアパレルは、その1店舗ごとに余剰を組み込んだ在庫を持つ必要があり、棚卸しすると合計で莫大な余剰在庫が残ることは誰もでわかるだろう。

 また、それぞれの店舗が貢献利益でなく売上をKPIにしているため、各店が必要以上の在庫を持つからだ。これに対して、一元化された在庫は、北海道の店舗が「引き当て」したら、九州の店舗で見ることができる在庫はなくなる。つまり、早い者勝ちのルールが、ウエブと日本中の店舗で徹底されているわけだ。管理単位が一つになって、日本中の店舗が早いもの勝ちルールで在庫を引き当てれば本部の在庫管理対象は一つとなり、たとえば、VMI (Vendor management inventory: アパレルが約定を入れないが在庫水準点を下回れば自動的に必要在庫をベンダーが補充する仕組み。ユニクロやワークマンのようなベーシックアイテムには有効だが、ファッション商品では難易度が高くなる)なども可能である。

パーソナルオーダーで10日以内に納品できる「奇跡」

 オンワード樫山のスマートテイラーは「奇跡の工場」だ。完全パーソナルオーダーで、一人ひとり、全くサイズが違う衣料品を10日以内に消費者にお届けする。積載率を上げるため、真空パックを使い従来のハンガー納品という非効率と比較し、高い積載率で輸配送料をコストセーブしている。ウールの性質上、一晩吊るしておけば膨らんで形が元に戻る。

 私も、先月春物スーツを作りにいったが、うるさいファッショニスタ向けに、イタリアのCANONICO(イタリア製の高級生地)の生地も選ぶことも可能だ。リアル店舗でサンプルを着用し、補正が必要な部分だけを修正しiPadに入力する。ZOZOSUITSのように、サンプルも着ず一発勝負でサイズ計測するよりよほど合理的だと私は思う。  

 「よろしいですか?」と、店員さんと一緒に計測したサイズを確認しながらボタンを押すと、その瞬間、リアルタイムにデータが中国大連工場にインターネット経由で流れ、遅くても翌日には自動裁断が始まると説明を受けた。スマートテイラーの凄さは、サイズの正確性以上に、そのスピードである。考えてもらいたい。日本中の店舗で、一人ひとり違ったサイズを10日以内に仕上げて届けるのだ。ドイツの無人工場がハイライトされているが、この大連工場はマスプロダクションもできればコートやシューズの生産も可能だ。

 やがて、ホールガーメントなどの技術やプリント技術を入れ、衣料品から雑貨までフルラインナップでパーソナルオーダーを行い、あたかもトヨタがやっているJIT 販売方式に移行し余剰在庫ゼロを実現するだろう。単にFOBが安いものを選ぶより、余剰在庫が残らないことによる最終的な損益計算書の利益率を考えていただきたい。大連の工場は高いというアパレルが未だにいるのが驚きだが、損益計算書だけしか読めないファイナンス力から、貸借対照表と連動した利益率をきちんと考えてもらいたいものだ。

  また、素人の連中が「半製品の在庫は残るだろう」と言っていたが、半製品というのは「特徴付け」がなされておらず、使い回しが可能であり、かつ、虫食いがなければ何年も持つことができる。むしろ、ウールというのは時間が経てば膨らみがまして風合いはよくなってゆくのだ。

 また、半製品は、FOB (アパレルが仕入れをする海外通貨の仕入れ簿価。海外の工場から出荷され船積みされる本船の手すりまでの輸送鎮を含む)の約30%程度で、在庫簿価はさらに低くなる。つまり、鮮度的にも金額的にも完成品在庫を持つより半製品を持つ方が効率が良い。キャッシュフローの問題は、再三述べているように別枠で解決が可能だ。ファイナンス力がしっかりあれば、半製品を持つデメリットは一切ない。むしろ、即座に生産が開始できるため、生産スピードが上がり良いことの方が多い。

 加えて、店頭にはサンプルと生地見本しかないのだから、余剰在庫の問題は完全解消される。このカシヤマ ザスマートテイラーは、紳士服チェーンのアオキ、青山商事の売上が減少している中成長している。理由はシンプルでオートメーション化された工場によって、価格は「吊るしの既製品」とそれほど変わらないし、何より納期も一週間。既製品のスーツのズボン直しと同じスピード、同じ価格なのだ。消費者がどちらを選ぶかは自明だろう。同社は、スーツ市場がシュリンクしていることはすでに知っており、次々とスーツ以外の商品に展開してきている。いずれ、衣料品ビジネスは「作ってから売る」のでなく、「売ってから作る」やりかたに変わってゆくだろう

ユニクロの「オーダーメイド感覚」で選ぶスーツ
ユニクロの「オーダーメイド感覚」で選ぶスーツ

 これに対して、ユニクロにも「オーダーメイド感覚」で作るスーツがあるが、この「感覚」と言うのが私にはよくわからない。数着作ったことがあるが、「この組み合わせはできません」と、なぜオーダーなのに「できない」ことがあるのかわからないことがあった。しかも、ブラウスになると「都内であれば翌日に出荷」される。これも考えられないようなスピードで、この「感覚」という文字を穿った見方で見れば、結局、いくつかの在庫を持って商売をしているのだろうと想像がつく。

 もちろん、守秘のベールで隠された同社であるから真偽のほどはわからないが、これは在庫ビジネスではないかと考えるのが自然だ。ユニクロであれば、その類い希なる販売力から在庫など怖くないのだろう。いずれにせよ、受注生産で、消費者の好みに合わせて自由にデザインとサイズを作ることができるオンワード樫山のビジネスモデルとはレベルが違う。

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記事執筆者

河合 拓 / 株式会社FRI & Company ltd.. 代表

株式会社FRI & Company ltd..代表 Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)。The longreachgroup(投資ファンド)のマネジメントアドバイザを経て、最近はスタートアップ企業のIPO支援、DX戦略などアパレル産業以外に業務は拡大。会社のヴィジョンは小さな総合病院

著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「生き残るアパレル死ぬアパレル」「知らなきゃいけないアパレルの話」。メディア出演:「クローズアップ現代」「ABEMA TV」「海外向け衛星放送Bizbuzz Japan」「テレビ広島」「NHKニュース」。経済産業省有識者会議に出席し産業政策を提言。デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言

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