実質9%値下げよりも影響大?ユニクロ直貿化宣言で業界地図は大変貌か?
ユニクロ直貿化が及ぼす影響
日本のアパレルは総じて「ユニクロ右ならえ」である。したがって、この「ユニクロ直貿志向」の情報は、その他、アパレル企業の商社外しをよりいっそう加速させるだろう。すでに解説したように、中国のエリートは日本の商社のまねごとなどいとも簡単にできる。どのアパレルも流通の短縮化とコスト、生産技術の「見える化」を目指し、真のSPA(製造小売業)企業に生まれ変わろうとしている。いま活発化されんとしている商社外しは、重箱の隅をつつくような原価低減のために行われるのでない。SPAとして、販売と生産をしっかりグリップするため、生産工程、素材開発、コストブレークダウンなどをアパレルが掴み、業界や産地特性情報を生かした製販統合を行うための、極めて戦略的なアウトソーシングなのである。
前回指摘したように、日本のアパレルは、未だにマーチャンダイジング(商品計画)などといって、顧客ビッグデータを活用せず、過去の商品動向で商品動向を予測し、センターストックにぶち込み「さあ、売ろう」と、はじめてビッグデータを使う製版分離型である。
私が提唱するDigital MDは、個客の買い回り情報を解析し調達量を算出するというものだ。本来、AIによる未来予測は、ZARA MDでなければ機能しないのだが、いくら説明しても「AIで未来を予測すれば、余剰在庫が減る」と、的外れなことをいう人が後を絶たない。ロジカルに考えれば誰もわかることなのだが、とにかく日本人は全てが「カップラーメン」のように「お湯をいれて3分」でできあがると思っている。
南下政策の限界とカントリーリスク
さらに、軍事クーデターの勃発により、オフショア生産先であるミャンマーが大混乱に陥った。これにより、ようやく収まりかけたコロナ禍の在庫問題も、ミャンマーで生産ができないということで、バングラデッシュや東南アジアに生産地シフトが必要となり大問題となっている。商社主導でコストの安い国へと生産地を移転させ、そのたび蓄積したノウハウをリセットせざるを得なかったアパレル業界だが、いま大きな「南下政策」リスクに晒されることとなった。
イタリアが成し遂げた「ブランド化」による生産地保護、米国のタイムベース理論による生産地保護、そして、最近ではドイツの無人工場による、いわゆるインダストリ4.0による生産地保護のように、思慮深い国は簡単に産業を移転させたりはしない。金をばらまき、産業保護の名目でゾンビ企業を生きながらえさせている日本とは雲泥の差だ。
商社には、もともと「カントリーリスク」という考え方があったのだが、いまは、激しく落ち込む売上を維持するため、取引を増やしている。そのため、「倒産リスクによる未回収」と「金利上昇による収益悪化」という2つのリスクを抱えている。
日本で売られている多くのブランドのライセンスを持っている伊藤忠商事は安泰だし、三菱商事はローソン、良品計画、そしてファーストリテイリングとの金融取り組み(商社金融については、著者の交差比率についての論考を参照してもらいたい)や人材派遣など、マネタイズポイント(お金になるモデル)を複合的に持つ戦略を打ち出している。いずれも商社の未来像を描こうとしているから心から応援したい。
今、私は過去アパレル企業の直貿化のお手伝いを幾度もやってきた。このため「河合さんはどっちの味方なのですか」と聞かれるのだが、その、対立関係を軸とした「固い頭」をなんとかしてもらいたいものだ。私は、アパレル企業が真のSPAになるためには、直貿化を拡大させること、また、商社は業態転換を図り、従来のトレードから脱却し、商社2.0をとることで蘇るべきという立場だ。誰の味方かと言われれば、「最終消費者の味方」だ。両者の戦略をクライアントとともに成し遂げることが、消費者にとってよりよい状況を作り上げ、結果、企業も企業は生きながらえることができるのだ。
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