アパレル商社復活の道-1 「サステイナブル経営」が商社を殺す訳

河合 拓
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サステイナブル経営で、
なぜ商社が窮地に追い込まれるのか?

 世の中では「サステイナブル経営」という言葉がバズワードとなりつつある。商社も思い出したように「リサイクル素材」などを打ち出しているが、これは自己矛盾を孕んでいる。なぜなら、大局的にものを見れば、新規素材を使って過剰供給をしているか、リサイクル素材をつかって過剰供給をするかの違いであり、なんらサステイナブルでもなければ資源の有効活用でもないからださすがに、アパレルの「売上至上主義」にも変化がおきてきたため、今後アパレルの仕入は下がり続け、また、直貿と呼ばれる商社飛ばし(商社の売上を下げる)が拡大しており、商社の売上はますます下がり続けてゆくことになる。

 なんとかS/Sを乗り切ろうとしているアパレル、その次に破綻の恐怖が襲ってくるのは商社である。なぜなら、4〜5月の初夏商戦時期に店舗閉鎖によりアパレル業界は危機的状況に陥ったといわれている一方で、S/Sの仕入れ(商社にとっては売上) は、満額アパレルに納品されていたので、商社はS/Sについては痛くも痒くもなかった。だが、上記の通りアパレルはFWの仕入れを極端に抑えているし直貿を拡大しているため、商社の売上は激減するからだ。
 実は、その兆候はすでに現れており、私が提唱する商社2.0 (投資でアパレルと垂直統合をする戦略)、および、商社3.0 (左記に加え、デジタルをアパレルに提供する)に業態変換できていない商社は壊滅的な打撃を受ける可能性が高い。

 そもそも、サステイナブルというのは、地球・自然との調和であり、リデュース、リユース、リサイクル、の3Rが基本思想の根底にある。一方、商社のKPI(重要経営指標)は今でも売上であり、粗利は一桁台という世界でも珍しい超ハイリスク・ビジネスモデルだ。余談だが世界の株式市場で商社が評価されたことは過去一度もない商社のPBR<株価純資産倍率>は、巨大商社であっても過去から1倍を超えたことはない)。

 この超売上至上主義ともいえるKPIは、ドラマ「不毛地帯」にあるように、焼け野原となった第二次世界大戦後の日本を復興させる立役者となった時代では有効だった。しかし、成熟社会である現代では、むしろ「致命的自己矛盾」ともいえる欠陥を孕んでいる。だから、商社は変わらねばならないのだ。超売上至上主義のビジネスモデルにおいては、ときに「不要な在庫」でさえアパレルに「押し込む」こともあり、リデュース(減らす)とは対局にある。

 ユニクロクラスの大企業であれば、控えめに仕入をしても、40ft (フィーター:20フィーターの倍の貨物が入る輸送コンテナー)を数十本でまとめられるだろう。しかし、ユニクロ以外のアパレルの発注など、小口のカートン数個という単位である。私などは、商社時代、アパレルの仕事が遅い責任を負わされ、香港(当時は広東省での生産が多かった)から、幾度も「人間輸送」をやらされていた。時には、全く関係のないファーストクラスの乗客(ファーストクラスは荷物を山のように持ち込める)に「カートンを持ってきて欲しい」と香港の空港で頼み、運んでもらい、通関税まで支払ってもらったこともある。働き方改革も何もあったものではない。会社には、香港から帰国する人間のリストが貼られ、間に合わない貨物は「ハンドキャリー」といって、手でバルク商品をもって往復するのが当たり前になっていた。たった3枚のサンプルを運ぶことだってあった。今では、サンプルの修正など3D CADでやるのが世界の常識だが、現物をみないと気が済まないアパレル企業の場合、今でも場合によれば、当時ほどではないにせよ、似たようなことをやっている。

 現実は、仕入の絞り込みと過度なQR(Quick Response) によって、日本のアパレルの調達物流は必要な商品をCFS (コンテナフレートステーションの略、コンテナーをばら売りし、小さな単位で積むことをCFSという)で積むのがせいぜいで、時にクーリエ (FedexやOCS <一般人が使う国際輸配送ドアトウードア・サービス>という最も高価な輸配送を使って商品を積むこともある。したがって、真のサステイナブルビジネス実現に不可欠な「二次流通市場」(アパレルが市場に出回っている余剰な自社ブランド商品を買い取り、再プレスして販売する)ができあがれば、商社は売上が激減してしまうのだサステイナブル経営だと叫んでいる商社の人は、素材をリサイクルにした程度で、サステイナブルは実現しない。サステイナブルの行き着く先には、このような現状が待っているという危機感をもっているのかと聞いてみたい。

 

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