「そごう・西武」のゆくえとファンド による企業買収のロジックとは
ファンドが打ち出す「企業買収のロジック」とは
![kuppa_rock/istock](https://diamond-rm.net/wp-content/uploads/2022/04/iStock-1180905461-2.jpg)
さて、これからどんどん増える企業買収について、アパレル企業は正しい知識を持つべきだろう。人口減少と所得減少のダブル減少により日本市場に未来はないにもかかわらず、日本のアパレルのほとんどは日本市場に集中し海外に出ようとせず業績を悪化させているからだ。
この5年、日本の衣料品の生産量の半分が売れ残っていることは、環境省のサステイナブル・ファッションのページにハッキリと書かれている。この計算は、日本の大手シンクタンクが算出したものであるが、仮に企画原価率が30%で最終消化率が50%となれば、日本のアパレル企業は3年で、売上高と同金額の不良資産が積み上がり、6年で売上高の倍の不良資産が積み上がっていることになる。こんな状態になれば、当然企業の運転資本は毀損され企業は破綻する。
損益が黒字でも企業は倒産する
企業再生を専門にしている私が最初に分析するのが、キャッシュフローだ。中小企業であれば資金繰りである。企業は、いくら赤字が続いても金があれば倒産しない。だから、かなりの数の非上場アパレルは不良資産である在庫をバランスシートに隠し、不良在庫を時価評価しないのだ。こうすれば、損益計算書に時価評価された在庫の損失(通常は売上原価に含める)が出てこないので、一見利益がでているようにいえる。しかし、このように臭いものに蓋を閉めるやりかたは、いずれ行き詰まる。最近では、損益計算書に「補助金収入」などという勘定科目が見られるようになった。非上場企業で十分なキャッシュがあれば、むしろ赤字の方が節税効果が働く。それなのに、損益計算書に「補助金」の科目がでてくることは、相当「コロナにやられた」ことを証明できるか、貸借対照表の「貯金」がほとんどなくなり借入もマックスに達している状況かのいずれかではないだろうか。
IPO、新株発行(いずれもエクイティ・ファイナンス)、社債発行(デットファイナンス)、そして保有資産の売却を除けば、企業が資金を調達する方法は大きく2つしか無い。一つは、銀行からの借入。もう一つは、事業会社やファンドへの株式売却による経営権の譲渡だ。資本主義経済では、基本的には「救済型の貸出」「救済型の企業買収」はない。
「基本的に」といったのは、デット(借入)についていえば、現実には与信をオーバーした債権回収が危機になり、債権主がファンドに頼み荒療治を行ったあとで株式の引き受けを約束するケースがあるためだ。これは、今後ますます増えるだろう。救済型の企業買収については、上場して調子にのった社長が、乱脈経営の結果経営危機に陥った昔の友人に頼まれ、なんの事業シナジーもない、単なる救済を目的とした買収を行うケースなどがある。
上場企業は投資家のものだから、このような勝手な買収はしてはならないのだが、現実にはあちこちで起きている。日本の株式市場、上場企業においてガバナンスが正常に働いていないからだ。ちなみに、これらは「理屈上ありえる話」ではなく、「現実にあった、ある」話である。
3刷突破!河合拓氏の書籍
「生き残るアパレル 死ぬアパレル」好評発売中!
アパレル、小売、企業再建に携わる人の新しい教科書!購入は下記リンクから。
河合拓のアパレル改造論2022 の新着記事
-
2023/01/24
「大ディスカウント時代が到来」 この意味が分からないアパレルの未来は悲観的な理由 -
2023/01/17
H&MやZARA等が原価下回る価格で取引を強要 SDGs時代にこんなことが起こる必然の理由 -
2023/01/10
ビッグデータを制する企業が勝利する理由と、M&Aできない企業が淘汰される事情 -
2022/12/27
2023年のアパレル大予測 外資による買収加速・DX失敗・中国企業に完敗、が起こる理由 -
2022/12/20
中国企業傘下の仏メゾン「ランバン」米国で上場 いまや中国企業に追いつけない理由 -
2022/12/13
過去のヒットからAIが予測し売れる服を自動生成!?アパレル業界の課題とこれからとは
この連載の一覧はこちら [55記事]
![河合拓のアパレル改造論2022](https://diamond-rm.imgix.net/wp-content/uploads/2022/01/kawai_2022_main.jpg?auto=format%2Ccompress&ixlib=php-3.3.0&s=e9dc3f80edc0322e9898e59423e5b4dc)
そごう・西武の記事ランキング
- 2022-12-21百貨店跡地再生に強みのヨドバシカメラ 図表でわかるビックカメラとの都心争奪戦の行方
- 2021-12-07そごう・西武、法人向けに健康管理アプリを提供開始
- 2022-11-15そごう・西武売却決定でどうなる!?ヨドバシ、フォートレス連合が取り得る4つの打ち手とは
関連記事ランキング
- 2024-06-25「パリコレ」にアパレル業界人が行かなくなった理由
- 2024-06-11日本人の服がこの10年で「ペラペラ」になった本当の理由
- 2024-06-19インバウンドで最高益続出!日本人が知らない「百貨店の価値」とは
- 2024-07-02日本人が大好きな衣料品セール 安く買うのが難しくなる理由とは
- 2024-06-29人気アナリストが解説、主要小売7業態決算総括と24 年度の展望
- 2024-06-04定番はユニクロ、ファッション品はシーイン…どうなる日本のアパレル
- 2024-07-09あなたの会社も要注意!「善意の行動」が仕組みを破壊するメカニズム
- 2023-01-06SHEIN TOKYO「売らない店」現地レポート!担当者が明かす、低価格3つの理由とは
- 2024-07-12値下げ率大きいユニクロと値下げ率小さいしまむら どちらが高収益?
- 2024-06-27インバウンドで業績復活!上場百貨店決算2024分析
関連キーワードの記事を探す
値下げ率大きいユニクロと値下げ率小さいしまむら どちらが高収益?
ファストリ12 兆円越え!上場小売業時価総額&ROA ランキング2024
ユニクロ式多頻度・小幅値下げとシーズン末大セール、どちらが得か
ファストリ12 兆円越え!上場小売業時価総額&ROA ランキング2024
人気アナリストが解説、主要小売7業態決算総括と24 年度の展望