百貨店向けアパレルが、今すぐ無駄なコストを10億円以上減らす方法 

河合 拓
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一般ビジネスパーソンのみならず、評論家やメディア記者に至るまでが実は知らない、アパレル業界で常識と言われている「意味の見えない」業務と悲劇を解説したい。きっと、本稿を読んで心ある読者は驚くだろう。そして、私が「アパレル不況は人災である」という理由もさらに理解できると思う。業界外の方から見ると非常識にしか思えない「常識」。今回は、百貨店ビジネスに関するものを披露したい。

djedzura/istock
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 アパレルを在庫まみれにする無意味な展示会の実態

アパレルビジネスの業務フローを山のように書いている私が、もっとも理解できない(合理性がない)と思うのが、「展示会」を起点としたMD(商品政策)業務フローである

呆れるのは、この業界何十年という記者でさえ「展示会」の実態をしらないのだ。曰く、「展示会で受注したものだけつくれば、在庫はゼロだ。これが受注生産だ」などと書いている。その御仁は「展示会で受注をとっても、リードタイムが長いので、見込み生産をせざるを得ず、余剰在庫が残る」とも書いていた。

業務を知らないにもほどがあるとはこのこと。衣料品の仕様企画が決まり、サンプルアップ(展示会サンプル)すれば、素材さえ確保すれば、10日あれば生産投入が可能なのは生産現場を理解していれば誰でも分かる。企画と素材収集が最もリードタイムのボトルネックであるという基本的なフローさえしらないわけだ。さらに、驚いたのは、「展示会」を受注の場だと思っていることだ。

この「展示会」で集計される「受注と称するもの」は、いわゆる「受注」ではない。キャンセル可能が前提の口頭約束のようなもので、わたしは小売の「つぶやき」と呼んでいる。正確に言えば、契約としての効力は何もない単なるお祭り騒ぎである。ここで集計する数量を前提にアパレル企業は(すべてはないが、大部分は)生産を開始し、百貨店に納入する。だが、百貨店から「残念でした、売れませんでした」と言われれば、余った商品が返品され、アパレルは在庫の山となるわけだ。

百貨店ビジネスには「委託取引」と「消化取引」という二つの形態がある。委託販売というのは、百貨店に商品を渡したら、あとは売れるのを祈ることしかできない。売れなければ翌月、大量の返品を受け取ることになる。
消化取引とは一旦在庫を百貨店に移動し、百貨店の店頭で売れた分だけ百貨店の取り分を引いて、入金データもないまま擬似的に自社売上として計上し、後に百貨店の債務と突き合わして、正式な売上とするやりかただ。

この二つの形態は、似て非なるモノだ。

売上基準にしても「出荷基準か」「店頭販売基準か」で違うし、商品販売動向の収集ができるかどうかという違いもある。もっとも重要なのは「販売動向の収集の可否」なのだが、そこまで動態的に顧客管理を行っている百貨店向けアパレルはない。

直営ビジネスとの大きな違いは、例えば、あなたがセレクトショップにいって、ある商品のMサイズがなかったとしたら、きっと店員さんは、「ああ、それは銀座店にありますから取り寄せますよ」と言ってくれるはずだ。しかし、この委託消化のビジネスは、「ああ、伊勢丹にないので高島屋から取り寄せますよ」ということが(数多くの伝票処理をすれば可能ではあるが)基本的にはできない。そもそも、伊勢丹が高島屋に電話をして、「在庫ありますか?」と聞くこともできないだろう。

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