動き出した低株価評価企業の“山” PBR1倍割れ小売業にこれから起こること
シチズンの自社株買いもサプライズ
2月のもう一つのサプライズはシチズン。
同社が2月13日に発表した自社株買いの規模にも衝撃を受けました。
75百万株までの自社株買いを一年かけて行うものですが、これは自己株式を除く発行済株式総数のなんと25.61%にも上ります。
プレスリリースと同時に発表されたQ3決算の説明において、同社は「当初想定よりもコロナ禍からの業績回復をスピーディに進めることができた。時計事業、工作機械事業の主力に事業の回復に手ごたえが感じられている中で、世界的にもコロナ収束が見えてきており、今後大きな将来不安はないものと考えた。また、有利子負債の返済も進めることができ、資本効率の向上を早期に図る目的で実施した。金額については、企業価値向上に関する東証の方針等も考慮しながら決定した」と述べています。
確かにコロナ禍ピークの2020年には同社のPBRは0.5を下回る水準にあり、2022年になっても0.7程度にとどまっていました。業績回復、成長投資の道筋が整ったという経営の認識に基づいての大規模な自社株買いの発表となりましたので、発表後株価は急騰し、PBRはほぼ1.0になっています。
低PBR企業の“山”が動き出した
筆者はこの2つの事例を見て、いよいよ「山」が動き出したと感じます。
ここでいう「山」とは、PBRが1を下回る企業群を指します。
端的に言えば、株主が期待する収益性を満たすことができず、その結果株価が一株あたりの解散価値の目処を下回ることが常態化する上場企業が多数あるということです。
概算になりますが、東証のプライム、スタンダード、グロースに上場する企業数は約3800社。このうち、足元でPBRが1を下回るのは約1800社弱、直近実績ROEが8%を下回るのは約1900社弱、そしてPBRが1を下回りかつROEが8%を下回るのが約1200社にのぼります。これが「山」の実態です。
つまり東証上場企業のうち半数弱が解散価値を下回るわけで、これは年金を含めた資産形成市場の中核を担うべき日本の株式市場が十分な機能を果たしていないことになります。もちろん、株式会社と言っても株主価値よりも優先すべき価値があり、その価値に貢献しているというのであればROEが8%を下回っても問題はないと思いますし、そのような多様性を認めるべきだと思っていますが、流石に上場企業の半数がPBRないしROEで十分なレベルにないというのは看過し難い状況です。
本来であればコーポレートガバナンスコードが浸透し、さらに東証の市場区分の括り直しが進む過程でこうした「山」は“自然解消”しているべきものでしたが、実際にはそうなりませんでした。コロナ禍のような不可抗力も作用したことも否めません。
しかし、2023年に入り、コロナ禍のような言い訳を続けることはできなくなりました。そうした環境変化を敏感に感じ取ったからこそ、大日本印刷やシチズンといった日本を代表する“保守的な”企業が資本効率と株価に改めて向き合い始めたと思います。これは決して局所的な話にとどまらず、大きな波及効果をもたらすと思います。
「山」は動く、と考えるべきでしょう。