大丸、三越伊勢丹…誰も語れない百貨店分析 政府の施策が百貨店を殺す「本質的理由」
百貨店のEC強化は誤った戦略
このように、百貨店というのは、好立地に館を構え、城下町を形成し、人が集うことでビジネスを作っている。例えば、二子玉川の高島屋を見れば面白い。自主編集の、いわゆる伝統的百貨店と場所貸しデベロッパー型専門店街で構成され、その競合としてSCである二子玉川ライズ、ファッションビルがそびえ立つ。見事に日本の館(やかた)戦争の縮図となっている。ここでは、伝統的百貨店平場はいつも閑古鳥がないている。賑わっているのは専門店街か駅直結のSCだ。
もう一つ、東京駅の大丸百貨店に行けば、1階と地下の食品やスイーツは恐ろしいほどの賑わいがあるが、上階の衣料品売場に行けば閑古鳥がないている。以前、大手アパレルと同社が、米国発の「クリックアンドコレクト」という、商品のバーコードを読み取り、自宅まで配送してくれるソリューションを導入したと聞いて驚いた。そもそも人がいない場所で、商品を買う人もいないのに、なぜ、そんな仕組みを導入するのか不思議でならなかった。その後静かに閉鎖となったが、当たり前だ。
想像してもらいたい。例えば、北海道の人が福砂屋のカステラやふくやの明太子を欲しいと思い、わざわざ九州の百貨店のホームページにアクセスするだろうか。当然、楽天などで、福砂屋、ふくやのページに直接アクセスし、百貨店の定価販売ではなく楽天のポイントをつけて買うだろう。
百貨店の海外戦略はあやまり
ある百貨店の役員から「タイにゴルフに行こう」と誘われ、ついでに、タイの伊勢丹を見に行った。中に入ってそのシャビーな状況に驚いた。まるで、日本のGMSの平場だ。しかし、考えてみれば当たり前である。ルイヴィトン、グッチ、ゼニアなどのスーパーブランドは、すでにローカルのショッピングモールに入っている。
中国の上海にいっても、代表的な百貨店はローカルの久光だ。日本の百貨店など後塵を排した館には有名ブランドは入らない。なぜなら、有名ブランドは、すでにローカルモールに入っているからだ。考えてみれば、米国の百貨店などアジアに一つもない。彼らは百貨店の価値と限界をよく知っている。
これは海外だけの話ではない。東京では圧倒的な強さを誇る伊勢丹が大阪の梅田に出店した時もすぐに撤退となった。梅田には阪急がいるからだ。すでに、魅力的なテナントや商品は阪急に入っている。逆もまた然りで阪急百貨店も東京で伊勢丹に勝つことはない。だから、百貨店は立地とテナントが命であり、商圏内の人を呼び込む場なのだ。商圏の外で戦っても勝てるはずがないのである。
私は、業績悪化に歯止めがかからない百貨店が、デジタルを使ったオムニチャネルに命運をかけるという発言を聞いて「これは必ず失敗するな」と思っていた。消費者がECで商品を買うのは「低価格」と「品揃え」の二つである。Amazonが業績を伸ばしているのは、その二つを強化しているからだ。
ところが、百貨店は「百貨」は品数はほとんどないし基本的に定価販売だ。いくらポイントが貯まるといっても、北海道の人が九州の百貨店のポイントなど貯めることはない。百貨店は物理距離を縮めても効果はない。百貨店のおいたち、そして、百貨店が我々消費者に与えている価値を分析すれば、百貨店とは、その周りにある人たちが集い、美味しい食事をして憧れの時計や高級ブランドを眺め、「いつかは」と、夢を膨らませるリアルな場所なのだ。百貨店のデジタル戦略は、リアルな『場』の提供で、これが百貨店の本質であり、百貨店の価値向上のポイントとなる。
早くも3刷!河合拓氏の新刊
「生き残るアパレル 死ぬアパレル」好評発売中!
アパレル、小売、企業再建に携わる人の新しい教科書!購入は下記リンクから。
河合拓のアパレル改造論2021 の新着記事
-
2022/01/04
Z世代の衝撃#4 Z世代を追えば敗北必至!取るべきトーキョー・ショールーム・シティ戦略とは -
2021/12/28
Z世代の衝撃#3 既存アパレルが古着を売っても失敗する明確な理由とは -
2021/12/22
インフルエンサー・プラットフォーマー「Tokyo girls market」驚異の戦略とは -
2021/12/21
プラットフォーマー起因の歪な過剰生産が生み出す巨大ビジネス、SheinとShoichi -
2021/12/14
Z世代の衝撃#1 ライブコマースで「インフルエンサー・マーケティング」が失敗する衝撃的理由 -
2021/12/07
TOKYO BASEがZ世代から支持される理由と東京がショールーム都市になる衝撃
この連載の一覧はこちら [56記事]
ファーストリテイリング(ユニクロ),三越伊勢丹の記事ランキング
- 2024-01-02勝ち組はSPAではなく「無在庫型」へ 2024年のアパレル、5つの受け入れ難い真実とは
- 2024-07-24拝借スペックのPBでは生き残れない!GMS衣料品は自前開発を決意せよ
- 2024-01-09ユニクロに負けずに利益を上げる!アパレル2024年「5つの論点」解決策とは
- 2021-03-05ビジネスは「一勝九敗」 ファーストリテイリングを世界的大企業に導いた“柳井哲学”
- 2023-11-14GMS衣料のジレンマと真実!イトーヨーカ堂アパレル完全撤退の必然とは
- 2024-06-29ファストリ12 兆円越え!上場小売業時価総額&ROA ランキング2024
- 2020-06-03ユニクロ原宿店最速レポート 「ポップカルチャーの情報発信基地」の全貌
- 2021-04-27日本のアパレルではもはや流通改革は成し遂げられない絶望の理由
- 2021-05-04大丸、三越伊勢丹…誰も語れない百貨店分析 政府の施策が百貨店を殺す「本質的理由」
- 2021-05-11キーワードは科学、製販統合!「無敵のユニクロ」を凌駕する「知る人ぞ知る」ファッション商品
関連記事ランキング
- 2024-07-23ユニクロに通じる…ファミマが検討中の衣料専門店が「台風の目」になる理由
- 2024-08-06消費者自ら参加し運営する「生協」 株式会社にはない価値と弱点とは
- 2024-08-13地球沸騰で「アウター依存」アパレルは危険!勝ち残る斬新な戦略とは
- 2024-07-30スポーツアパレル市場が今後も成長する理由とユニクロの役割とは
- 2024-06-19インバウンドで最高益続出!日本人が知らない「百貨店の価値」とは
- 2023-01-06SHEIN TOKYO「売らない店」現地レポート!担当者が明かす、低価格3つの理由とは
- 2024-06-11日本人の服がこの10年で「ペラペラ」になった本当の理由
- 2024-01-02勝ち組はSPAではなく「無在庫型」へ 2024年のアパレル、5つの受け入れ難い真実とは
- 2024-07-24拝借スペックのPBでは生き残れない!GMS衣料品は自前開発を決意せよ
- 2024-07-24業態別 主要店舗月次実績=2024年6月度
関連キーワードの記事を探す
ムダ多く割高!日本のアパレル生産が「ガラパゴスの壁」を越える方法
地球沸騰で「アウター依存」アパレルは危険!勝ち残る斬新な戦略とは
スポーツアパレル市場が今後も成長する理由とユニクロの役割とは
ファストリ12 兆円越え!上場小売業時価総額&ROA ランキング2024
人気アナリストが解説、主要小売7業態決算総括と24 年度の展望
ムダ多く割高!日本のアパレル生産が「ガラパゴスの壁」を越える方法
拝借スペックのPBでは生き残れない!GMS衣料品は自前開発を決意せよ
値下げ率大きいユニクロと値下げ率小さいしまむら どちらが高収益?
地球沸騰で「アウター依存」アパレルは危険!勝ち残る斬新な戦略とは
スポーツアパレル市場が今後も成長する理由とユニクロの役割とは
消費者自ら参加し運営する「生協」 株式会社にはない価値と弱点とは
外販事業も拡大!自社工場を強みとするクイーンズ伊勢丹のSPA型商品開発戦略とは
好調の伊勢丹新宿本店 固定客拡大で見えてきた過去最高売上更新、3000億円突破のスゴイ戦略
栗原憲二・伊勢丹新宿本店長インタビュー 売上V字回復の裏にあった「コミュニティMD」とは