世界でアパレル不況が同時に起きた本当の理由と勝ち残りの道
EC化がアパレル業界を破滅に追いやっている

私の分析によれば、世界でアパレル業界が等しく衰退しているのは「EC化」が原因だということになる。
もちろん直接的破たんの原因はまちまちなのだが、各企業が等しくキャッシュフローを悪化させた要因は、等しくEC化であるということを聞けば、「何をバカなことを」と聞く耳を持たないのが今のアパレル企業だ。
しかし、これも消費者起点に立って考えてみれば直ぐにわかるのだが、アパレル企業は、EC化によって、世界中の類似商品と「単品勝負」に追いやられ、リアル店舗内の空間演出や、他のMDとの相乗効果による「世界観」や「ワクワク感」の醸成という感情価値(イメージ価値)が壊されていることが理解できていない。消費者はいまブランドなど関係なく、スマホを使いモールで類似商品を比較し購買している。その結果、単品完成度とコスパの高いユニクロにメッタメタにやられているわけだ。チームプレイで戦うべきなのに、モールで個人プレイに追いやられ、負け戦にかり出されているといったらおわかりだろうか。
ではそれを解決する秘策であった「デジタルSPAはどうなったのだ」といわれれば、「私の目の黒いうちに実現化されることはないだろう」ということを告白せざるを得ない。繰り返し述べるが、私は口だけの評論家でなく実際に実務を行う実務家でもある。商社にデジタルSPAのコンセプトや講演を行った数は10社をくだらない。なかには一社で5度以上も同じ勉強会を開催したこともあった。
しかし、毎度の如く話は「金はどの部署が払うのか」など、つまらないところで脇道にそれ、「自分も前から考えていた。それなら自分でやろう」と、自己流で前工程のパトロン(垂直統合するアパレル)を見つけ、「一緒にやりましょう」と「なんちゃってデジタルSPA」をやり始める。こうした、雨後の竹の子のように垂直統合があちこちで出来ていることは述べたとおりだ。あと三年もすれば、なんだ、この業界は、というぐらい補正ができないほど複雑化していることだろう。
個別最適の優先がデジタルSPAを壊す
結果、今、いくつかの商社とセレクト企業、あるいはSPAアパレルがデジタル結合を進めているが、そんなことをしても喜ぶのはデジタルベンダーだけで、商社の重いコストが流通の中に入れば、人件費と巨額な固定費、デジタル減価償却費がかさみ、さらにコストが重くなるだけだ。
私が提唱したデジタルSPAはそんな単純なものでない。複数アパレル企業が生産調達を一本化し、生産、物流、素材の3つを一つのシステムで共有化するというものだ。さらに、デジタルベンダーに至っては、ここがチャンスとばかりに自らの収益化を濡れ手に粟のごとく求め、もはや構造的にデジタルSPAの実現は混迷を極めている。システムなど所詮はシステムだ。使えなければ他にすればよいし、それでもだめなら作れば良い。しかし、コンサルタントという立場上、「お前はだまっていろ」といわれ、結果、強いリーダーシップを発揮することもできず、最後は、ご勝手にと苦い別れ方をすることになる。私は、クライアントに嫌われても、正しいと思うことは曲げない性格だから、この仕事に疑問を持ち始めている。
私は、何か難しいことをいっているのではない。例えば、自動車業界やパソコン業界、その他産業で起きた合従連衡による産業効率化をアナロジカルに産業界に当てはめ、中小企業の集まりであるアジアのファッション企業こそ共通化領域をクラウド技術でシェアせよといっているだけなのだ。しかし、人災ともいえる個別企業の利益誘導により、もはや合従連衡など夢物語と思うようになった。本来リーダーシップを発揮しなければならない第三者機関である有識者があの有様だ。この取り組みは見事に失敗した。
正直言って、もう私にはこれ以上デジタルSPAを進めるつもりはない。10年前に「ブランドで競争する技術」で「競争優位性の確立は流通改革にある」と提言し、その根拠を克明に記した。だが、いまだにアパレル業界は、数十、数百の複雑怪奇なバリューチェーチェーンパターンを放置し、手と紙で流通とものづくりをしている。アパレル業界に生き残りの未来が見えなくなってきているのだ。少なくとも、私の目の黒いうちに、あらゆる産業で起きた合従連衡は起きない。地獄の果てまで行かねば変わらないのだろう。
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