世界でアパレル不況が同時に起きた本当の理由と勝ち残りの道
真似してはいけない アパレルを巡る、非論理的な意見の数々
ある評論家は、某セレクトショップの商品回転率が2.6回転だという事実を取り上げ、8カセットMDを「2.6回転しか商品が売れていない。つまり、約半年も商品が店頭に並んでいるのに、8回も商品投入するなど、現実と理想の乖離が激しく余剰在庫を残す原因だ」と主張する。だが、これは論理的に自己矛盾を孕んでいる。この主張は因果関係が逆で、例えば、プロパー消化率が50%だとすれば、総投入量の半分がイン・シーズンに売れ残り、残りはセールシーズンまでキャリーとなるため、それらの総投入量を平均化すれば、商品回転率はトレンドの8回転とは相関しない。むしろ、なぜ、これほどプロパー消化率(的中率)が外れるようになったのかを分析しなければならない。
この評論家は、未だに「消費者から見たトレンドの回転率」と「物理的な総投入量の総消化」が同じだと思っているわけだ。この2つが異なることはすでに述べたとおりで、この人のように古き良き時代を知っている人ほど、未だにプロパー消化率が90%、つまり、総投入量がイン・シーズンでほとんど売れる時代の考え方(1990年代)を引きずっている。
さらに、先日、私が参加したある有識者会議では、日本の「トップ・ブレイン」と言われる人が集まっていた。だが、大変僭越ながら「この人たちは大丈夫か?」と首を傾げざるを得ない状況を目の当たりにした。
ある有識者は冒頭で、商品投入点数が昨今40億点もあることから、人口から考え過剰生産が問題だと述べ、そこから余剰在庫を問題視し、その解決案としてAIを使ったトレンド将来予測で余剰在庫が解決できると断じていた。
なぜ、「量の問題(作りすぎ)」が、「質の問題(トレンド的中率)」で解決できるのか。いわば、1リットルしか入らないバケツに、例えば、1.3リットルの水を入れるから0.3リットル(余剰在庫)がこぼれ落ちる。百歩譲って、仮にトレンドが的中しても、水で一杯となったバケツに物理的に入らないものは何をやっても入らない。自ら課題を「作りすぎ」と断じておきながら、それをトレンド予測で解決できるというのは、風邪を盲腸手術で治そうとするぐらい課題と解決案がチグハグだ。
アパレル業界では、このような話は枚挙にいとまが無い。
私は、この連載で、最も正確に人のサイズを測る方法は、標準サンプルをリアル店舗で着てもらい、合っていない部分だけを修正することだと述べた。また、競争優位性は、ウルトラハイテクを使ったサイズ計測精度でなく、生産のスピードにあるとも指摘した。消費者調査をしてみればわかるが、10日以内にパーソナルサイズによるパーソナルオーダーを手に取ることができれば、消費者は既製品と変わらぬ感覚で購入できる(丈直しなど既製品のお直しは1〜2週間)。逆に生産に1ヶ月以上かかれば、期待値が向上し、従来のビスポーク、あるいはフルオーダーと同じと思い、ちょっとしたサイズのズレでもクレームが5倍に増える。
つまり、アパレル業界はリアル店舗を使ってサイズ計測し、例えば、標準サイズのこの部分を直せばジャストフィットであるというデータをもっておけばよく、投資すべきは高効率で生産できるスピードアップを実現する流通構造なのである。特に、パンプスなどのレディースシューズは、パーソナルオーダーが全盛期だが、人の足というのは常にうごいており、止まった足形にぴったりのものなど全く無意味である。判を押したように、「3D計測が」などという人が多いが、鉄の靴でも作ろうとおもっているのだろうか。
こうした消費者起点に立った正しい戦略を素直に守っているのがオンワード樫山のザ・スマート・テーラーだ。リアル店舗で経験豊かなスタッフが採寸、工場に巨額のデジタル投資を行って10日以内のフルオーダーを既製品と変わらぬ値段で実現している。スーツ市場が破壊的に減少している中でも売上は伸びているのもあたりまえだ。私は、高島屋の下請けをやっているHANABISHIという会社のパーソナルオーダーの再建をファンドとともに行ったことがあるが、見事に復活した同社も目的と手段の違いをしっかり堅持していた。
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