キリンビール代表取締役社長 松沢幸一
「のどごし〈生〉」「新・一番搾り」「キリン フリー」…連続ヒットの裏側にあるものとは?!

2009/12/09 00:00
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団結力で「のどごし〈生〉」がブレーク

──そうした人事交流は、マーケティングを強化しているということですか?

 

松沢 そうです。数年前から、マーケティング強化を推進しています。

 

 当社は以前、ビール類でトップシェアを持っていましたが、01年にトップの座を奪われました。しかし、その年、「新キリン宣言」が出て、「価格営 業」から「価値営業」に転換しました。つまり、商品そのものの価値、お取引先に対する当社の価値を追求して、「品質本意」、「お客さま本意」の原点に戻ろ うということです。

 

 そういう中で、部門間を超えて、商品・広告・販促の管理を一元化する「トータルマーケティングプラン」の手法を導入しました。

 

 マーケティングというと、すぐに広告とか商品開発を思い浮かべますが、私は営業の最前線が非常に重要だと考えています。営業担当者が小売店さまや 料飲店さまに何を伝えられるかがカギになると思うのです。広告などのマス向けの部分と、お取引先に対して営業が個別に動く部分が、店頭フォローのキリン マーチャンダイジング(東京都/家久来眞社長)まで含め、一気通貫でうまく連動すれば、大きな力を発揮します。

 

 お取引先と営業セクションの間を取り持つのが、当社の企画部にある「市場リサーチ室」です。ここで得たさまざまなデータや情報を営業が組み合わせて、お取引先と私どもがお互いにハッピーになれる提案をしたいと思っています。

 

 机上論ではなく、事実に基づいて検証して、お取引先にご納得いただける提案力をつけて、それを「価値営業」の柱にしています。さらに、市場リサー チ室の情報を商品開発や広告に生かすとともに、この月は店頭ではこの商品を強化するから、広告でもその商品をバックアップしていくという、一気通貫の流れ を今後もつくっていきたいと思っています。

 

 新ジャンルに挑戦して05年に発売した「のどごし〈生〉」のヒットは大きな転換点でした。「のどごし〈生〉」は全社一丸となって、予定より発売を 早めました。しかも、予想をはるかに上回る売れ行きにもかかわらず、一度も品切れさせませんでした。あのころから会社が変わり、社員全員がやればできると いう自信を得て、成功パターンのようなものがつかめた気がします。

 

──「のどごし〈生〉」の開発にはどんな経緯があり、ヒットのいちばんの勝因は何だったのでしょう?

 

松沢 味覚をはじめ、商品自体にかなりインパクトがあったのが大きかったと考えています。

 

 私は05年の発売当時は生産部門にいました。「のどごし〈生〉」は当初は4月20日発売になっていましたが、社内では営業を中心に、「もう少し発 売を早めたい」という期待がありました。つまり「何とか需要期のお花見に合わせて、桜が咲くころまでに出したい」ということです。

 

 そのため、4月発売に向けて年末年始も休まずに準備を進めていました。各工場とは毎日のようにテレビ会議をしていました。そして、2月になって何 とか発売を2週間早める算段がついたのです。営業に伝えたところ、すぐに4月6日の発売が決まりました。あとは、販売量が上ブレしたときのことを想定し て、どこまで生産量を増やせるか必死で調整しました。他の商品の生産を別の工場に移してでも、「のどごし〈生〉」の生産に振り向けるという覚悟で臨みまし た。そして、営業マーケティング部門もすでにお得意先に伝えて進めていた準備を全力で繰り上げました。

 

 ちょうど、あの年は寒い日が続いて、例年よりも桜の開花が遅れて、何とか桜が咲くまでに間に合わせられたのです。もちろん、品切れもさせませんで した。まさに、営業や物流も含めて、全員が一致団結して「チームキリン」になったと思いました。だから、私自身「のどごし〈生〉」には深い愛着がありま す。

 

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