ディスカウントストアの多慶屋、 データに戻づく経営管理を強化

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総合ディスカウントストアの草分け的存在である多慶屋(東京都)は管理会計システムをクラウドで利用し、データに基づく経営管理を強化している。会計管理業務を効率化・合理化するとともに、店舗・フロア・商品カテゴリー・販売チャネルの4軸での営業損益データを現場に提供し、売場拡縮の判断材料として活用している。

44フロア、膨大な商品、複数のチャネル

多慶屋の御徒町本店には8つの館がある。総フロア数は44に上る

 多慶屋が管理会計システムを導入したねらいは、店舗、フロア、商品カテゴリー、販売チャネルの4層で営業損益を把握したかったからだ。

 多慶屋の店舗形態はユニークだ。店舗は「御徒町本店」と「SELECT上野店」の2店舗。JR山手線「御徒町」駅の近くにある御徒町本店には「本館A棟」「本館B棟」「レディス館」「家具館」「家具館別館」「インテリア・雑貨館」「8号館」「5号館」の8つの館がある。館は多層階で、フロアの数は44に上る。取扱商品は多岐にわたり、食品・化粧品・医薬品・日用雑貨・衣料・時計・ジュエリー・家具・家電など19万アイテムに上る。これらの実店舗に加えて、ネット通販や東京ドームシティなどでの店外催事といった販売チャネルもある。

多慶屋経理財務部課長の高安寛氏

 1つのフロアで家具や雑貨など複数の商品カテゴリーを扱っているケースもあり、どのフロア、どの商品カテゴリー、どの販売チャネルがどれくらい儲かっているかを把握するのは複雑な計算が必要だった。これをエクセルで管理していた多慶屋経理財務部課長の高安寛氏は次のように話す。

 「店舗、フロア、商品カテゴリー、販売チャネルの4層で損益管理をしたかったが、4層が複雑に入り組み、エクセルでは限界にきていた。伸びていたインバウンドの損益管理も課題だった」

低コストで運用できるクラウドサービスを利用

 商品カテゴリーは、最上位に食品・健康美容生活用品・レディスファアション・メンズファッション・家具・家電の6つのカテゴリーがあり、それぞれ下位にチームが属している。売上と粗利益は、化粧品や医薬品などの商品分類別に管理していた。営業損益については、カテゴリー・フロア別で管理していたが、化粧品や医薬品などの商品カテゴリー別(商品分類別)では管理できていなかった。

フロアの商品カテゴリー単位で把握した営業損益を、売場拡縮の検討材料にする

 こうした課題を解決しようと、管理会計ツール導入の検討に入った。選定したのが、「Oracle Planning and Budgeting Cloud Service」である。多次元でのデータ分析・レポート作成ができること、クラウドサービスで提供されているため低コストで利用できることなどが決め手となった。

 

 導入準備に要した期間はわずか2カ月で、運用を開始したのは15年9月からだ。それまで、複雑さを極めていた損益管理業務は大幅に簡略化された。経理財務部は会議資料として使うレポート作成業務を行っていたが、1時間以上かかっていた作成時間も大幅に短縮化された。作業時間はトータルで3割ほど削減されたという。レポートの内容も多次元分析による詳細な報告が可能になった。

次のアクションに数値データを生かす

多慶屋取締役情報システム部兼ネット通販部統括部長の阿野彰久氏

 店舗、フロア、商品カテゴリー、販売チャネルの4層の営業損益データは、売場の拡張や縮小の検討材料として利用できるようになった。インバウンドで好調な化粧品や医薬品の営業利益も実際に伸びていることがわかり、売場を拡張したフロアもある。精緻な判断も可能になった。たとえば伸びているカテゴリーの売上と利益のボリュームが大きく、経費も相応にかかっている場合、その売場を拡げるより、売上・利益が小さくても経費があまりかからずに営業利益を稼いでいる売場を拡張したほうがいい、といった判断ができるようになったのだ。

 データはマネジャー以上に開示され、マネジャーの担当部門の範囲内での売場拡縮の判断に活用している。エクセルとの親和性が高く、操作も容易なため、マネジャーにも好評だ。

 多慶屋取締役情報システム部長兼ネット通販部統括部長の阿野彰久氏は言う。

 「数値データがなければ、次のアクションは起こせない。小売業にとって重要な指標である営業利益。以前は数カ月単位で把握していたが、1カ月単位になったことで、数値に対する現場の意識は確実に高くなっている」

 今後は、システムに搭載されているシミュレーション機能を活用していきたいという。さまざまな与件に基づいて、売上やコスト、営業利益の予測を行い、中期経営計画作成にあたって必要となるデータを提供するのがねらいだ。

ネット通販売上を5年で5倍に

多慶屋企画部経営企画課課長の東方宏昭氏

 多慶屋は現在、社内の各部署からメンバーを選定したITプロジェクトチームで、効率的・効果的なIT投資はどうあるべきかを検討している。

 ここで検討した結果の1つにモバイル端末の導入がある。今年9月にも、営業支援のため250台を導入する予定だ。店舗のバックヤードに戻らなくても、売場にいながらにして、売上や在庫などの情報を確認したり、業務指示を出したり、さらに通信機能を使った従業員間のコミュニケーションもできるようにする。

 多慶屋が今後、力を入れていこうとしているのがネット通販である。ネット通販の売上を5年で5倍にするアグレッシブな目標を立てている。リアル店舗との融合についても、顧客の利便性向上につながるサービスを強化する考えだ。

 多慶屋企画部経営企画課課長の東方宏昭氏は、「台頭するネット通販に対して実店舗のよさは何か。喜びやときめきを感じるような買物体験を実現するには、お客さまとのコミュニケーションを強化する必要がある。そのための営業支援をITで実現できれば、店舗として生き残っていくことができる」と話している。

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