スピードウェイを取り込んだセブン-イレブンは米コンビニ市場の覇権を握ることはできるか?

在米ジャーナリスト:岩田太郎
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セブン&アイ・ホールディングス(HD)傘下の米セブン-イレブン(7-Eleven, Inc.:以下、セブン-イレブン)が、米国のコンビニエンスストア市場の覇権を目指し、大型買収や新機軸のサービスを通して事業を拡大中だ。大量出店により飽和状態に達したといわれる日本市場とは違い、ローカルで小規模なチェーンが多い米コンビニ業界は、上位寡占化が進んでいない。その中でセブン-イレブンは、ガソリンスタンド併設型の店舗を活かして抜きんでた存在になることを目指している。

JHVEPhoto/iStock

スピードウェイ買収とフレッシュフードの充実

 セブン&アイ・ホールディングスは2021年5月に米セブン-イレブンを通して、過去最大となる約2兆3000億円を投じ、米ガソリンスタンド併設型コンビニ「スピードウェイ(Speedway)」の3800店舗を買収した。

 すでに店舗数で全米トップであったセブン-イレブンはこの買収でその数が約1万3000に達し、名実ともに米国最大のコンビニチェーンとなった。しかし米国は、全米15万のコンビニ店舗の大半を地域の小規模店舗が占める特殊な市場だ。特に、単一店舗しか持たないコンビニが全体の60%に達する(全米コンビニエンスストア協会調べ)。

 さらに、コンビニ業界に属さない、ガソリン小売大手の英シェル(Shell)や米エクソン(Exxon)がそれぞれ1万店以上のガソリンスタンド併設型コンビニを展開している。事実、米国で販売されるガソリンの80%は、コンビニで給油された燃料だ。

 こうした大小さまざまなプレイヤーがひしめき、店舗フォーマットに統一性が欠ける分野で、セブン-イレブンは中期的に取り組む重要戦略分野を定め、差別化で収益向上を狙う。

 まず、ガソリンスタンド併設型の米コンビニにおける特徴として、ガソリン等の燃料による売上高が商品販売額の約1.5倍に上るものの、燃料等の粗利益率は店内商品に対して低いことが挙げられる。そのため、給油目的の来店客に利益率が高い店内調理のフレッシュフードや飲料を購入してもらうことが必須となる。

 セブン-イレブンは買収した旧スピードウェイ店舗において、商品粗利益率の向上とバリューチェーンの強化を目的に、名物の炭酸スラッシュ「スラーピー(Slurpee)」や、約950mlの大型容器が人気のファウンテンドリンク「ビッグガルプ(Big Gulp)」をはじめ、一部店舗では売場に併設された傘下のラレド・タコ・カンパニー(Laredo Taco Company)のテキサス風メキシコ料理、フライドチキンのルーストチキン&ビスケット(Roost Chicken & Biscuits)の販売に力を入れている。

 こうしたブランド力のある飲料やファストフードを全国で均一に展開できることが、セブン-イレブンの小規模競合に対する強みだ。たとえば、東部ペンシルベニア州の小さな町ワワが発祥のコンビニであるワワ(Wawa)は株式公開をしていないファミリー企業で、同州の大都市フィラデルフィアなどを中心に950ほどの店舗を構えるガソリンスタンド併設型チェーンだ。

 1964年創業のワワは「うまいコーヒー」を売り物にしており、「ホーギー」と呼ばれる固いパンで作った、好みに合わせてはさむ食材を変えられるサブマリンサンドイッチも評判だ。ここ数年はフロリダやアラバマなど南部諸州にも進出を始めている。しかし、そのブランド力は依然ローカルレベルにとどまる。

 M&Aの専門家で、米国ビジネスブローカー&アドバイザーズ(本社:イリノイ州シカゴ)社長であるテリー・モンロー氏は、「セブン-イレブンのスピードウェイ買収は米コンビニ業界にとり、肯定的な影響をもたらす。旧スピードウェイと比較して知名度が高く、他のどの米コンビニチェーンよりも認知度が高いからだ」と語った。

 同氏は、「ペンシルベニア州では州西部を中心に約670店を構えるシーツ(Sheetz)が人気であるし、州東部ではワワが選ばれている。だが、消費者は全国でどのコンビニを訪れても同じ商品やサービスが得られる一貫性を欲している。セブン-イレブンはその統一性を提供できるだろう」と高く評価する。

 モンロー氏はさらに、「セブン-イレブンは急速に米コンビニ産業のマクドナルドになろうとしている」と述べ、セブン-イレブンが米国でコンビニの代名詞のようになってゆくと示唆した。

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