ツルハHDは本当に非上場化に向かうのか?6000億円の資金の出どころとその先は?
非公開後のツルハHDは業界再編のキャスティングボートを握るのか?
買上げ主体の株主となるPEファンド(プライベート・エクイティ・ファンド)は当然ツルハHDを他のドラッグストアチェーンないし周辺の小売業者に高値で譲渡することを初めから狙うことでしょう。そのためには、同業他社比で改善余地のある労働生産性を引き上げ、収益力を高めた上で、次には事業統合の効果としてのスケールメリットを譲渡価格引き上げの原資にするような交渉を考えているはずです。
これに対してドラッグストア業界の現状は企業数の集約があまり進んでいない状況といえます。つまりツルハHDをすぐに傘下に収めなければ規模競争の後手にまわるという危機感を同業他社が考えるほど切羽詰まった状況にはないと言えます。残る買い手候補は、総合スーパー(GMS)、ディスカウントストア、コンビニなどになるでしょうが、統合によるスケールメリットが出にくいため好条件の譲渡価格はつきにくい気がします。
このように考えると、この案件は、大義が曖昧、負債増加で相対的に財務力が低下するリスクがある、ツルハHDが再編のキャスティングボートを握っている段階にない、など筆者には説得力が不十分に映ります。ツルハHD創業家にとって、堂々と従来通りの経営を貫くもよいでしょうし、イオンに創業家関連の株を譲ることで経営から退くことも選択肢のはずです。彼らにとって真の狙いはどこにあるのでしょうか。
イオンの対応はどうなるか?
最後にもう一点注目したいのは、筆頭株主でありながら、経営関与
仮にイオンが保有するツルハ株を高い値段で譲渡できるのであれば、昨今の厳しいコーポレートガバナンスの規律の元、持ち株を譲渡しなければ株主から誹りを受けます。イオンの場合、ウエルシアホールディングスを連結している立場ですので、こちらの業績を伸ばすことが理に叶いますし、現在の業界集約の状況を見れば、ツルハHDを手放すデメリットが大きいとは思われません。仮にイオンがツルハHD株式を売ると決める場合、ベルクのようなツルハHDと同じ立場に置かれた会社がどう考えるのか、イオンはツルハ株式の代わり金をどのように活用するのか、など気になる点が数多く出てきます。
一方、現在のところ、イオンがツルハHDへの関与を増やす、すなわち持分法適用会社化、ないし連結子会社化する可能性も否定できません。この方向が最も腑に落ちる展開であり、ツルハHDの経営陣はこの着地を図るがために非公開化を検討しているとも考えることができるでしょう。
この事案の鍵ややはりイオンにあるのではないか、筆者にはこう思えてなりません。
プロフィール
椎名則夫(しいな・のりお)
都市銀行で証券運用・融資に従事したのち、
米系証券会社のリスク管理部門(株式・クレジット等)を経て、
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