株価割安ではないのに…アクティビストが堅実な西松屋チェーンをねらう理由と対応策

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 エフィッシモの狙いと
西松屋チェーンの対応とは

  このように考えると、エフィッシモは大株主として、次の諸点を西松屋チェーンに確認してくるはずです。

  • 現預金保有残高基準の精査
  • 成長戦略の具体化と付随する資金量および投資リターンの見込み
  • 今後数年間にわたるフリーキャッシュフローの金額見込みとその使途予定
  • 余剰資金がある場合の株主還元方針
  • 株主資本効率を経営指標の上位に位置づけることの是非
  • 直営店展開以外のビジネスモデルの模索

  西松屋チェーンのこれまでの財務戦略は、従来の株主には受容されていたのでしょうが、資本効率に敏感なエフィッシモの登場で、同社は改めて上記の諸点を明確にする必要に迫られたことになります。

  とりわけ、現預金保有残高基準の適否は肝になるでしょう。

  こうした状況におかれた企業は、ストック部分である積み上がった現預金には手をつけず、フローにあたる部分、すなわち今後の利益から配当に回す比率(配当性向)を引き上げ、株主の反応をみることが典型的です。この対応は、今後の現預金の積み上がりを減速させる意味ですので、現預金を過剰と見る株主に対しては一定の有効回答になります。

  西松屋チェーンの場合、直近3年間は20%を下回る配当性向に留まっています。この水準は、高成長期にあり手元現預金の潤沢ではない企業が採用する水準であり、安定成長期ないし成熟期にさしかかり手元現預金の潤沢な企業の水準とは乖離しています。そこで、まずは配当性向を例えば50%に引き上げ、あわせて配当額の下限を設定するというような方針を打ち出してくることが想定されます。

  とはいえ、せっかくの機会ですので、西松屋チェーンには、現預金保有残高基準の改定、および資金面も含めた成長戦略を提示し、成長ポテンシャルを定性・定量的にしっかりと打ち出し、余剰現金は株主還元にも向け始める、新たなレジームを策定することを期待します。

 そうであれば同社の株価は成長力を従来以上に前向きに評価し、エフィッシモ以外の株主にも恩恵が生まれます。

  株主構成を見るとラディカルな変化を生み出しにくいようにも思いますし、同社の資産背景を眺めると多めに現預金を持っておきたい気持ちもよくわかります。ここは両者で建設的な対話を進め、西松屋チェーンの経営力と成長ポテンシャルを改めて資本市場に再認識させてほしいと考えます。

 

プロフィール

椎名則夫(しいな・のりお)
都市銀行で証券運用・融資に従事したのち、米系資産運用会社の調査部で日本企業の投資調査を行う(担当業界は中小型株全般、ヘルスケア、保険、通信、インターネットなど)。
米系証券会社のリスク管理部門(株式・クレジット等)を経て、独立系投資調査会社に所属し小売セクターを中心にアナリスト業務に携わっていた。シカゴ大学MBA、CFA日本証券アナリスト協会検定会員。マサチューセッツ州立大学MBA講師

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記事執筆者

都市銀行で証券運用・融資に従事したのち、米系資産運用会社の調査部で日本企業の投資調査を行う(担当業界は中小型株全般、ヘルスケア、保険、通信、インターネットなど)。

米系証券会社のリスク管理部門(株式・クレジット等)を経て、独立系投資調査会社に所属し小売セクターを中心にアナリスト業務に携わっていた。シカゴ大学MBA、CFA日本証券アナリスト協会検定会員。マサチューセッツ州立大学MBA講師

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