今必要なのはDX、SDGではない 直貿を闇雲に増やせば、アパレルが即死する理由

河合 拓 (株式会社FRI & Company ltd..代表)
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企業再建の仕事が増えてきた。今、おおよそ一月に一度の割合でアパレル企業の売買情報が流れてくるほどだ。その背景の一つに、直接取引を増やすことによって「アパレルの突然死」の可能性が高まっている点が新たに挙げられる。それはどういう意味なのか、解説しよう。

djedzura/istock
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締め支払い習慣は日本とアジアの一部だけ

 2B(企業間取引)の仕事をした人であれば、「締め、支払い」という言葉を何のためらいもなく受け入れ、例えば、LC (信用状)と聞けば「ああ、貿易の時に使うものでしょう。うちはTT (Telegraphic transferable remittanceの略で、昔の外貨送金の呼称をそのまま使っている)だから使っていませんよ」、程度の知識しか持っていない人が多い。しかし、経営が順調に見えても、ビジネスモデル改革途上で突然死が襲いかかる可能性が拡大しているのだ。

 貿易に詳しくない読者のため簡単に説明しよう。LCとは、Letter of Credit (信用状)といって、銀行が売先に対し、支払い能力があるという信用と、記載されている書類が揃えば有価証券とともに銀行が支払いを肩代わりする「保証書」のようなものだ。LCそのものは有価証券ではない。これ以上の説明は避けるが、海外ではLCを国内でも使うのが一般的で、「貿易に使う」というのは間違っている。また、LCにはUsance(支払い猶予)という後述する「商社外し」による「即死」阻止の機能もある。

 「締め支払い」とは、債務者が支払い業務を効率化するため特定の日を自分都合で設定、一括処理し一括支払いする債務者優先業務であり、海外では韓国などアジアの一部ぐらいでしか見たことがない。海外貿易では、債権者から届く「Invoice」という請求書に記載された期日までにバラバラに支払う債権者主導が常識だ。

 企業は、黒字でも現金がなくなれば倒産するし現金があれば赤字でも存続する。しかし、この当たり前を分からず資金難に陥る企業が増えてきた。昨今のアパレル不況から、いま「商社外し」が加速、アパレル各社は数年後に海外取引の大部分を直接取引に変えようとする可能性が高い。逆に商社の方も、新素材開発をしたり、小売ビジネスに打って出るなど、様々な「アパレルの商社外し」から事業を守るため、事業実験をしているのはこのためだ。

 国の成長が止まり、消費経済から循環経済となり、(推定値)50億枚以上の隠し在庫と個人間取引が行われている日本国内だ。新規商品を投入し続ける商社のトレードの存在意義は近い将来薄れてゆくのに解説は不要だろう。

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記事執筆者

河合 拓 / 株式会社FRI & Company ltd.. 代表

株式会社FRI & Company ltd..代表 Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)。The longreachgroup(投資ファンド)のマネジメントアドバイザを経て、最近はスタートアップ企業のIPO支援、DX戦略などアパレル産業以外に業務は拡大。会社のヴィジョンは小さな総合病院

著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「生き残るアパレル死ぬアパレル」「知らなきゃいけないアパレルの話」。メディア出演:「クローズアップ現代」「ABEMA TV」「海外向け衛星放送Bizbuzz Japan」「テレビ広島」「NHKニュース」。経済産業省有識者会議に出席し産業政策を提言。デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言

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