今必要なのはDX、SDGではない 直貿を闇雲に増やせば、アパレルが即死する理由

河合 拓
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オフプライスストアは悪魔の禁じ手、二次流通が広まらない事情

米国で一定の規模を有するオフプライスストア だが、日本では?(Photo: J. Michael Jones)
米国で一定の規模を有するオフプライスストア だが、日本では?(Photo: J. Michael Jones)

 こうした基本的環境分析をないがしろにし、川下(小売・アパレル)は、衣料品の値入が少ない(消化すれば粗利率が大きい)という、ただそれだけの理由で、都心や駅前一等地に衣料品売場を山のように作っている。これは30年前の常識「売れ残ればアウトレットや催事で在庫を捌ければ大丈夫」という「昔のやり方」を変えられないからだ。驚くことは、そうした指摘すると「分かっているが、大きくなった組織の動きを止めることは難しい」というのである。

 こうしたアパレルの没落期に、「オフプライスストア」という悪魔の禁じ手まで出てきた。

 「アウトレット」というのは、ECは存在せず、立地も田舎の奥地だ。これは、「ブランド毀損させないため」の保全策である。もし、ブランドの 「アウトレットEC」が仮に存在するとして自宅で買えるようになれば、銀座のブランド店舗や百貨店は破壊的打撃を受けるだろうといえばおわかりか。アパレル業界には、過去からこうした「暗黙の了解」があった。「オフプライスストア」とアウトレットの違いが分からない人のために解説すると、オフプライスストアとは、都市部での店舗販売に加え、ECも行うハーベスト戦略(ビジネスが終焉に近づくとき、可能な限り現金を回収する戦略)であると私は見ている。

 こうした分析から私は、米国で一世風靡し日本でも一時流行った「タイムセール」販売企業の成長戦略として、「アウトレット」との統合、つまり、在庫の一元化とEC(タイムセール)とリアル店舗(アウトレット)融合による競争力強化を提言したことがあるが、当時は誰からも理解してもらえなかった。しかし、最近、やたらとタイムセールに「逸品」が登場するようになってきたことにお気づきだろうか。もはや、スーパーブランドといえど、背に腹は代えられないほど、人が嗜好品を買わないからだろう。世の中も無駄なモノは買うな。長く使えと消費者をたきつけている。アパレルは全方位から集団いじめにあっているようだ。

 「タイムセール」にしても、ブランドを期間限定販売する手法で、ブランド毀損しない施策として登場した。しかし、「競争社会」は、穴が空いていれば必ず誰かが埋める。「オフプライスストア」ができれば、リアル店舗の「アウトレット」とECの「タイムセール」が結びつきオムニチャネル戦略で対抗することは必然なのだ。「タイムセール」は、さらに「贅沢旅行」など、体験セールECとも統合してゆき脱衣料を進める。実際、日本のタイムセールには空欄の「トラベル」という欄ができているが、本家の米国のサイトには見当たらない。

財務戦略が弱い企業が即死するのは「CCC」が読めないから

 こうした世紀末ともいえる産業下では、弱った企業の統合や企業の垂直統合による余剰コストの排除が激しい頻度で行われる。実際、商社の統合や、アパレルや工場の買収が数多く発生しているのはこうした理由からだ。

 一方、バブル期に潤沢な現金資産を保有しPL経営しかやってこなかったアパレル企業は、利益率さえ上げれば大丈夫と考えビジネスモデル改革のもと、キャッシュフローを読み違え危機的状況が増えてきた。今、産業界はDXSDGs一色だが、最も重要なのは財務と業務を結びつける、いわば財務戦略なのだ

  ものが売れない経営環境で、物販で最も大事なポイントは「キャッシュ・フロー」、いいかえれば「資金繰り」である。入金と支払いの期間差をCCC (キャッシュ・コンバージョン・サイクル)という。

 

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