アパレルも製造メーカーも小売も成功できる! 図解!化粧品事業参入のための差別化戦略
化粧品業界のこれまでと異種格闘技戦に入った現在
過去、古くは化粧品事業のKFS(key factor for success/ 成功の鍵)は、派手な広告宣伝による「イメージ戦略」が中心だったようだ。消費者はテレビCMのタレントやモデルを見て、百貨店のラグジュアリーな売場で化粧品を買えば美しくなれると考えていた。その名残か、今でも化粧品業界は大手広告代理店の大口得意先の一つである。
しかし、直接肌につける化粧品というのは、肌に合わなければ当然トラブルを起こす。また、日本では高齢化が進み、肌に対する悩みの要求度が高度化してきている中、単なる有名モデルを使った消費刺激だけでは情報武装と知的購買化が進んだ消費者の購買行動を誘発するには不十分になってきた。
ファンケル、DHCなどは、そんな消費者ニーズとメーカー都合の論理ギャップに着目し、業界参入当初は小規模ながらも大規模な広告宣伝は使わず「通信販売」という独自チャネルを積極活用し、「自然派、無添加」という「大手メーカーとの違い」を巧みなマーケティングで打ち出し事業拡大していった。また、こうした動きを皮切りに、エビデンス・ベース・マーケティングと呼ばれる、単なる「イメージ」でなく権威者による評価、科学的根拠の提示などによる「効果」・「効能」を積極的に差別化要因として押し出すマーケティング手法を活用し、新規参入が相次いだのである。
アミノ酸のリーディングカンパニーを自認する「味の素」は、アミノ酸スキンケア化粧品「Jino (ジーノ)」シリーズで参入。お得意芸である酵母を使ったサントリーは「F.A.G.E (エファージュ)」を発売。こうして、化粧品業界は、飽和した市場を複数のプレイヤーで食い合う異業格闘戦の時代に入っていった。
競争優位のカギは「通信販売」と「ブランド化」
Amazon や楽天など、ネット通販ガリバー。彼らの成功の秘訣は「圧倒的な品揃え」と「低価格」、そして、それらを下支えする「システムインフラ」と「物流」であるといわれている。
実は、異業種参入メーカーのチャネル別売上構成を分析すると、多くの企業で通販売上が全体の50%以上の上位を占めている。ここから、新規参入勢はAmazonや楽天などのネット通販企業のビジネスモデルを分析し、その成功の秘訣を自社化しようと考えた。しかし、両者は全くの別物だった。モール型ネット通販のビジネスモデルを模倣しても、化粧品事業では成功しない。また、こうした「思い違い」が、過剰広告投資による万年低収益化という悲劇を生んでいるのである。解説しよう。
異業種参入メーカーの通販売上構成比が大きいのは、日本の流通の特殊性が関係している。日本の流通構造は数多くの問屋により顧客情報が分断され、また、小売は独自に商品調達を行って店頭に独自基準で商品陳列するため、メーカーが打ち出したいメッセージ(あるいは世界観)などが、実店舗の店頭では正確に伝わりにくい。
したがって、こうした異業種参入メーカーが持つ独自技術、また、その独自技術がなぜ化粧品に転用されると大手化粧品メーカーより「効果」・「効能」が高いのかを、自社で運営可能なウエブサイトで打ち出し、自社でデザインや構成を決められる媒体で販売しているのである。私は、拙著「ブランドで競争する技術」(ダイヤモンド社)で、ブランド化に行き着けない広告宣伝費の過剰投資を「広告ドーピング」と呼んだ。
ブランドの立ち上げ時期において、多くの広告宣伝投下は認知度と好感度を高める意味で正しい戦略といえるだろう。しかし、ある一定規模の認知が得られ、ユーザーの体験価値が上がった段階で、広告費は自然に下降していく。ブランドへの「ファン化」による、リピート購買、あるいは、異なる化粧品のクロスセルにて売上を維持、拡大するのが勝ちパターンである。さもなければ、永遠に派手な広告宣伝費を投下し続け、「売上は上がり続けるが、収益は赤字のまま」という状態が続くのだ。このブランド化を戦略的に行わなかったメーカーが広告宣伝費を少なくするとブランドの息の根が止まる。まさに、広告代理店のカモになった状態だ。
これらは、メーカー側が「ブランド化」と「プロモーション」の違いを理解していないために起きる。旧来型の大手化粧品メーカーの「イメージ戦略」に対して、独自のエビデンス・ベース・マーケティングにより、自社の持つコア技術をテコに「効果」・「効能」を間接訴求し、市場の隙を突いて参入してきた異業種プレイヤー達は、この段階で立ち上げの「プロモーション」から「ブランド化」への道程が見えなくなっている。
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