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なぜあなたの会社は利益が出ないのか? 間違ったKPIが企業を窮地に追い込む実態

経営コンサルタントという仕事をしていると、いわゆるKPI(Key Performance Index)と呼ばれる、その事業を数字で表す重要な指標が、企業によって驚くほど異なっていることに出くわすことに驚くことが多い。また、書籍まで出版し、詳しく「4KPI」という最もシンプルで、最も強力なKPIを解説したにもかかわらず、いまだに多くの企業が間違った認識のまま会話を進め、間違った事業評価をしている実態があちこちで起きている。今回、この4つさえ理解すればアパレル事業の全貌が理解できる「4KPI」について、改めて詳細に、そして徹底的に解説したい。

fiphoto/istock

 アパレルの春夏:秋冬利益配分は2:8

 コロナ禍において、「ディスカウンター x それなりの品質」企業以外は厳しい決算となったアパレル業界。内情を知る私から言わせてもらえれば、まさに「マッチ棒に火をともすような細かなコスト削減」によって一桁台の利益をなんとか残しているのが実態だ。結果、いわゆるプロ経営者と称する人もあちこちで現れているが、やっていることはコスト削減だけという状況である。

 本当に意味あるKPIを活用するか否かは、事業の死活問題である。本来、企業間をまたいだKPIの比較については、業界内での自社事業のパフォーマンスを知るという意味においても極めて重要だ。理想的には、第三者機関などが業界横断した物差しを定義・提示しなければならないのだが、そうした動きは見えてこない。そのため、企業によってバラバラのKPIを無邪気に横比較し、各社がポジショントークする動きさえ目につく。

  いずれにおいても、「2割対8割」 といわれるアパレル企業の春夏と秋冬の利益配分に対し、不可逆的に進行する「暖冬」によって、収益の根幹である重衣料の利益計画さえ立たない状況だ。特に都心においては、「真冬でもコートさえ不要」「真夏に聞きすぎたクーラーからカラダを暖めるため毛布を使う」など、シーズンという概念さえ消失しつつあり、もはや昔の教科書は言わずもがな、シーズンなどという概念さえも消滅しかかっている

 こうした難しい時代を生き抜くため、事業を正しく理解するために不可欠なのが後述する4KPIなのである。

 4KPIはすべての基本、まずは基準を統一すべし

 さまざまなKPIが存在するアパレルビジネスだが、事業の全体像を正確に表すことができるKPIは、「プロパー消化率」、「残品率」、「オフ率」、「企画原価率」の4つである。私は日本のアパレルビジネスにおいては、少なくともこの4つを、統一化・標準化し、第三者機関が収集、集計しながら各企業や事業に渡すべきだと思う。

 それでは、それぞれに対しどのような問題があるのかを語ろう。

最も大事な指標プロパー消化率

 プロパー消化率は、4KPIの中で最も重要な指標である。このKPIを5ポイント上げるだけで(後述するオフ率とのバランスにもよるが)、営業利益率は10%近く改善することもある。プロパー消化率の向上は、何にもましてアパレル企業が改善すべき指標であり、プロパー消化率の向上は、利益率のみならず売上さえも上げ、余剰在庫さえも削減できる。

 このプロパー消化率は、ある期間内での総投入量に対して、どの程度が正規価格(いわゆる定価)で売れたのかを、金額ベースで算出する指標である。

 なにをいまさら、と思う人も多いと思うが、それでは、以下の2つの質問に答えられるだろうか? 

 この2つとも正解は「NO」である。理由はシンプルだ。

 プロパー消化率を計測する際、分母は「総投入量の正規上代見合い金額」、分子は「正規販売金額」である。月またぎ、あるいは、期ずれを起こした場合、納期が遅れる(分母が少なくなる)ほどプロパー消化率は向上するからだ。

 例えば、合計 1000枚の投入量を2月に300枚、3月に300枚、4月に400枚という投入計画を立てたとする。ところが、納期遅れが発生し2月に100枚しか納品できず、3月にも100枚、4月に帳尻あわせで800枚もぶち込まれたケースだ。

 当然、現場では過激なやりとりが繰り広げられているが、経営にはそんな声は届かない。

 そして、こうした現場のやりとりを知らない経営層が、上がってくる管理会計資料を分析すれば、2月は完売(プロパー消化率は100%)で、3月は、例えば90%で「めでたく決算終了」となる。「来期も楽しみだ」と微笑んでいたところ、納期遅れ分の800枚もぶち込まれ、さらに今どき3ヶ月も継続販売できるような商品はユニクロくらいだから800枚のほとんどが売れ残り、例えば、「期初からプロパー消化率は10%前後で推移」という惨憺たる結果を目の当たりにすることになる。これは、本当にあった話だ。

 私は、アパレル企業の経営企画部の人々と話すたび、財務視点の期間収益と消費者視点のニーズ的中率を激しく混同していると感じることが多い。企業の成績簿である財務3表と関係なく、アパレル不況の今だからこそ、あくまでも消費者視点での管理=管理会計が必要なのではないかと思う

 このケースにおいては、当該商品が売れると判断したタイミングを起点に、売れなくなるとマーチャンダイザーが判断した時を終点として、この商品を使った事業が終了した時点ではじめて商品パフォーマンス評価するのが原則だ。中間巡航速度などは存在しない。もし、期間収益を会計年度や月次で追いかけたいというのであれば、予実計画対比で比較して見るべきだ。したがって、『11月のプロパー消化率 90%』などというのは自己矛盾の管理なのである。

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あえて「オフ率」経営上の重要指標にする理由

「オフ率」を経営上の重要指標として扱う(写真はロイター)

 次に、「オフ率」について語りたい。オフ率とは、産業界ではKPIとして使われておらず、例えば、セール時期に「オフ率は30%だ」など、「ディスカウントレート」と同義語で使われていることが多い。いわゆるマネジメントKPIではない。 

 マネジメントKPIとは、常に、そのKPIに意味を持たせ、経年や計画対比で差異が生じた場合、その原因はどこにあるのか、あるいは、何が問題なのかの病状をしるために活用するものだ。

 しかし、私がこの「オフ率」をマネジメントKPIに昇格させたのには理由がある。それは、プロパー価格で売れなかった商品は、放っておくとやがて鮮度品としての価値が下がり、最終的には特損(特別損失)として、大きな赤字を生み出す原因となるからだ。実際、俗に言われる「V字回復」をアパレルビジネスに当てはめるなら、日本中に散らばっている鮮度切れの在庫を一気に特損として計上し、バランスシートを正常化し、そこまで余剰在庫を溜め込んだMD(商品政策)オペレーションを改善して収益体質に持って行くことをいう。

 もちろん例外的に、メゾンと呼ばれるスーパーブランドは値下げをせず、余った在庫は無理に「換金」せず、正規販売品の原価の歩留まりに最初から計上し、定価を大きく上げてブランド価値を保つという特殊なケースもある。

 しかし、一般的には、「プロパー価格」で販売できなかった半余剰在庫(値引きをすれば売れるものと値引きをしても売れないものが含まれているという意味)については、できるだけ早く「換金」し、キャッシュフローを良化させるやりかたが一般的である。つまり、「オフ率」とは、プロパーで売れなかった商品の「換金変数」として、どの程度のディスカウントを行えば現金に変わるのかという指標たり得るわけだ。ある一定のところまでディスカウントレートを下げれば、消費者は買ってくれるという前提で、企業は可能な限り「オフ率」を低く(値引きをしない)目標値として設定し、その範囲で、プロパーで売れなかった商品を「換金」することになる。

したがって、「オフ率」とは、

”非”正規価格売上 ÷ (総投入)正規販売売上見合い

 と考えるのが最も合理的だろう。

 つまり、プロパーで売れなかった在庫を分母にし、その残在庫をシーズン内で何%ディスカウントすれば、これ以上換金できないところまで来るのかという指標となるはずだ。こうすれば、年度別の比較が可能となる

  しかし、ほとんどの企業ではオフ率をマネジメントKPIにしていないし、仮にしていたとしても、同じ目的にも拘らず分母は総投入金額である。つまり、正規価格で完売すれば1000万円だった総投入量を100%とし、実売売上が700万円だったため「オフ率は30%だった」という考え方で会話、分析をしている。このやり方には致命的な欠陥がある。説明しよう。

  私が提唱する手法は、分母はあくまで「プロパー販売で売れなかった在庫金額の総数」である。理由は2つあり、一つは上記通り「売れ残り商品の換金率最大化のための最小値引率」がキャッシュフロー上最も重要だからである。もう一つは、仮に総投入量の正規価格売上見合いを分母にしてしまうと、プロパー消化率が、例えば30%の場合と70%の場合では、その意味合いが全く違ってくるため評価指標として使えないからだ。

  仮に、総投入の正規価格売上見合いを分母に「オフ率」を使った場合、プロパー消化率が70%オフ率が30%だった場、最終消化率は100%となり、プロパー消化率が30%オフ率が30%だった場合プロパーで売れなかった総投入量の70%がどの程度のディスカウントレートで「換金率最大化、オフ率最小化」になったのか瞬時に計算できる人は相当数学の得意な人だけで、ほとんどの人は自社商品の換金変数がどの程度なのか計算できないだろう。

  また、そもそも、2つの指標を組み合わせなければ、その意味合いが分からないというのであれば使い勝手は極めて悪い。ここは、ロジカルに考えても実務の流れに沿っても、プロパーで売れなかった在庫総数を分母とし、「換金率最大化、オフ率最小化」の臨界点を判断する材料として使うべきだ。

  加えていうなら、私はファミリーセールやバッタ屋(いわゆる安売り小売業)、さらに福袋にいたるまで、「換金」可能なものはすべて、「オフ率」に組み込むべきだと言っていることもおわかりだろう。しかし、産業界では、せいぜいアウトレットまでが「オフ率」で、そこから先のファミリーセールや福袋は、“処分“ という、一体、何を分析したいのか意味不明な分類学で別名を使って「オフ率」とわけている企業が多い。

 私は、お金に換えられる以上、「換金変数」としての機能は果たしているし、これらも全て「オフ率」に組み込む方がよほどシンプルだと思う。

これ以上価格を下げてもキャッシュに変えられない「 残品率」

 次に「残品率」である。これは、2)であげた「換金変数」としての「オフ率」で、「換金率最大化」を達成し、もうこれ以上、いくら価格をいじっても一銭のお金にも換えられない段階の余剰在庫を炙り出すための指標である。

 残品率は、そのまま簿価が損金処理の対象となり、P/Lの特損、あるいは、原価を押し上げる要因となる「残品率」の逆数が「最終消化率」となり、今アパレル産業の最大の問題と言われている焼却問題の対象となる。ある有識者会議で、「日本のアパレルは製造した商品の半分を燃やしている」などと発言していた人がいたが、おそらくプロパー消化率と最終消化率を混同しているのだろう。

 この「残品率」は、会計制度で定められた一定の期間を経て、そのまま損失計上されるものだ。これを、「まだ売れるから」とバランスシートに溜め込み、自分にとって都合が良い時期(例えば事業が好調だった時)に予算超過収益と一緒に、「特別損失」として相殺し計上している企業がほとんどである。これは、日本にある2万社弱ともいわれているアパレル企業のほんとんどが上場しておらず、まさに、こうした貸借対照表と損益計算書のさじ加減によって、見かけの収益を操作し銀行からの資金調達に活用しているからだ。しかも、なんの悪気もなくである。こうした企業が上場し、しっかり在庫を評価する制度を採用するとたまげるわけだ。

 だから私は、貸借対照表の経年変化の売上高流動資産比率の推移とデット(借り入れ)、現金・売掛金のすべての推移をみないことには、アパレル企業の損益計算書を全く信用しないことにしている。

 

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最後が企画原価率 (調達原価率)

利益計画上極めて重要な指標が企画原価率である(写真はイメージ)

 4KPIの最後が、企画原価率、またの名を「調達原価率」である。これは、MDにとっては利益計画上極めて重要な指標であり、調達部・生産部にとっては守るべき憲法のようなものだ。 

 例えば、正規上代が1万円の商品投入をするとする。MD、経営から与えられた売上、利益計画を達成するため20%あるいは、21%などという企画原価率をこの商品に対して設定する。これは、1万円で売る商品を2000円、あるいは、2100円で生産・調達せよ、という意味になり、調達部・生産部の最も重要な仕事となる。

  しかし、この企画原価率は運用上注意が必要で、例えば、アパレル企業の多くの損益計算書を見れば、原価率は50%-60%程度となっている。これに対し、企画段階の原価率は百貨店ビジネスであれば25%前後、ショッピングセンターであれば35%前後だ。これを、いわゆる「商社外し」によって、商社の通し口銭を下げるわけだが、あまりやり過ぎると、商品品質が激しく落ちてくる。例えば、百貨店ビジネスの場合企画減価率の5倍が上代だから、企画減価率を5ポイント下げれば、上代換算すれば25%も価格が変わってくることになる。具体的に言えば、10,000円の商品が7,500円の商品になるわけだ(商品コスパが変わらないという前提で)

  加えていうなら、コスト削減ばかりやっている企業のP/L変調主義は、企業を窮地に追い込むこともある。例えば、ある世界的高収益企業の企画原価率は45%前後だし、一般的な雑貨もそうだ。両者に共通するのは、損金処理までの期間が長いということである。当然、在庫として倉庫に何年も眠っているわけだからキャッシュフローは悪化するし、昨今、アパレルは直貿化を進めているため、商社金融を使わず先んじて素材を買い付けるということもやっている。

 こうしたことがダブルパンチとなって、損益計算書も貸借対照表も綺麗になるが、キャッシュフローが悪化するということになるわけだ。しかし、ここは、再三述べているように、さまざまなファイナンススキームによって解決は可能だ。先進的な企業は、こうした商品調達から販売、マーケティングや利益計画に財務部を参画させ、あらゆるファイナンススキームを駆使し、あるいは、資金調達にあらかじめ、こうした在庫品の流動化を組み込んでいる。

 

  4KPIは、私が業績不振に陥った企業で最初に行う事業評価の指標である。あえて、丁寧に書いたのは、あまりに短絡的に解決案に飛びつく業界の先行きを案じてのこととご理解いただきたい。「ハイテクを使って来年のMD計画が見事的中。余剰在庫は劇的に削減」などという言葉に踊らされてはならない。世の中の動きとプロセスの見直し、財務戦略と業務戦略の融合など、基本の中に真実がある。ハイテク活用は、その後の話だ。

 

プロフィール

河合 拓(事業再生コンサルタント/ターンアラウンドマネージャー)

ブランド再生、マーケティング戦略など実績多数。国内外のプライベートエクイティファンドに対しての投資アドバイザリ業務、事業評価(ビジネスデューディリジェンス)、事業提携交渉支援、M&A戦略、製品市場戦略など経験豊富。百貨店向けプライベートブランド開発では同社のPBを最高益につなげ、大手レストランチェーン、GMS再生などの実績も多数。東証一部上場企業の社外取締役(~2016年5月まで)