VUCA時代の小売と消費のカタチ・後編 コロナ禍の今こそ向き合いたい、世界トレンドから読み解く消費の形

2020/03/25 05:39
    堤 藤成  株式会社フェズ クリエイティブ・ディレクター/広報部長
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    新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の問題が世界中を騒がせており、刻々と変わる状況で、小売企業は臨機応変な対応が求められている。こうした中、昨日公開した前編では小売業界の「本質的価値」と役割を我々がどれだけ実現できているのかを検証した。後編である本稿では、筆者が実際に暮らしながらリサーチを進めてきたグローバル視点での小売の視点をシェアすることで、多面的視点でVUCA(ブーカ)時代の「小売と消費のカタチ」について考察を進めていきたい。

    ※Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)という4つの頭文字から取られた「先が見えない時代」を象徴するキーワード

    小売店に設置されたセルフスキャン型のためのバーコード読み取り端末
    小売店に設置されたセルフスキャン型のためのバーコード読み取り端末

    「 無駄に頑張らない」から生産性が高い
    オランダの小売

     現在筆者が暮らすオランダは、年間平均労働時間が1433時間と短い一方、「時間当たり労働生産性」も69.3ドル(6900円)でOECD加盟36カ国中第8位と高い水準(*1)を実現している。対する日本の「時間当たり労働生産性」は46.8ドル(4,744円)であり、OECD加盟36カ国中21位だ。さらに主要先進7カ国でみると、日本は1970年以降ずっと最下位の状況が続く。

    *1「労働生産性の国際比較:日本生産性本部の2018年版」https://www.jpc-net.jp/research/list/pdf/comparison_2018_trends.pdf

     ではなぜオランダの小売は、そんなに生産性が高いのか。それは合理的に考えることを徹底し、提供するサービスの「選択と集中」を徹底しているからだ。誤解を恐れずに言えば、あれもこれもと「無駄に頑張りすぎない」ことで高い生産性を実現しているのがオランダの小売だ。

     例えばオランダに住んで驚いたのは、小売店の営業時間の短さである。平日も昼頃にならないとオープンしない店も多いし、土日はそもそも営業しない店も多い。日本だと買い物している消費者がいると営業時間を伸ばしてもサービス残業で店員が接客している場面を見かけるが、オランダの場合は閉店の30分前には店員がもう帰り支度を始めている。

     さらに小売店側も「テクノロジーを活用して楽できるところは楽しよう」と言う視点が明確だ。実際セルフレジが非常に普及している。大型のスーパーだと10数台のセルフレジに、1名の店員がヘルプ係として対応する光景も見られる。またバーコードを読みとる機械を店内に設置している店もある。ここでは、客が店員の代わりに直接バーコードを読み取り自分のエコバックに入れ、最後にレシートだけを発行し、ゲートから出ていくという仕組みだ。つまりAmazon GOのような高額なセンサーやカメラなどを導入せずとも、直接バーコード読み取り機を渡すことで、直接消費者にレジ係の役割を担ってもらうといった発想でも生産性は高められるのだ。

    いかに少ないインプットでアウトプットを最大化できるか

     また数少ない有人のレジでも、店員が袋につめることはなく、客が自分でエコバックに詰め込んでいく様子も見られる。そのため日本と比べて疲弊している店員が少ない印象だ。労働時間が短く、仕事内容に余白と余裕があるため、店員が一言「Happy Friday!」などと声をかけてくれることもしばしばだ。そのため、セルフサービス的な部分は多いはずなのに殺伐とした印象はなく、接客の付加価値を感じられたりもする。さらに過剰包装をしないことで、作業を減らし生産性を高めるだけでなく、地球環境にも優しい小売が実現できているのだ。

     「生産性」と言う指標は、提供する価値というアウトプットに対して、投入した時間などのインプットで割ることで計算できる。そもそもオランダの消費者は、営業時間が短いことに対して文句を言う人は少ない。それは家族や友人と過ごすプライベートの時間を大事にするオランダの価値観が前提にあるためだ。小売で働く人々にも大切にしたい人生がある、ということを誰もが当たり前に受け入れている。このようにオランダの小売は、デジタルの活用やサービス内容に関する選択と集中によって、いかに少ないインプット(労働時間・サービス内容)で、アウトプット(小売としての提供価値)を最大化することにフォーカスしているのだ。

     一方、日本の場合は「お客様は神様」いう価値観が強すぎるため、ほんの少しの追加のアウトプット(売上)のために、長すぎる営業時間や過剰包装・過剰サービスなどで、インプットを増やしすぎてしまっていないだろうか。日本が誇る「おもてなし精神」も確かに大切だが、小売各社は今こそ立ち止まって、デジタルを活用して削減できる無駄を見つけ、どのような価値に選択と集中するのか、内省する機会にしても良いのではないだろうか。

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