ユニクロの脱「一括大量生産」が、さらなる勝ち組に向かわせるワケ

河合 拓 (代表)
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圧倒的コスパを実現する「原価の高さ」
だから値引きせず売れて儲かる

撮影:DCSオンライン
撮影:DCSオンライン

 忘れてはいけないのは、ユニクロの持つ「圧倒的なコスパ」である。今、お買い物はインターネットを使ってボーダーレスである。海外のウェブサイトに英語でアクセスすれば、直接日本にまで配送してくれるブランドも多くなってきた。

 そうなると、百貨店を中心に服作りをおこなってきた「中価格帯」と呼ばれる日本のアパレルは極めて中途半端な立ち位置になる。ユニクロは、商社を使わず、例えばヒートテックのような定番商品はVMIVendor Management Inventory)といって、ユニクロが発注書を切らなくても規定在庫水準点を下回れば工場が自答的に補充する仕組みを採用している。30年も変わらず、何階層にも及ぶサプライチェーンで、しかも、ほとんど意味をなしていないデジタル投資をしているようなサプライチェーンから生まれるプロダクトでは相手にならないほどコスト競争力が違ってくる。

  さらに、これは、前号、前々号で明かしたことだが、損益分岐点を下げなくてもプロパー消化率をあげればコストが倍になったとしても、高い粗利率を実現することができるのだ。日本の「中価格帯アパレル」は、商品はプロパー価格では売れず、セールで売って利益がでることを前提に値付けをしている。そのため、ユニクロのようにプロパー消化率が80%を超え(ZARA80%を超えているといわれている。今、勝ち組のプロパー消化率は80%だ)れば、消費者から見た「コスパ」は何倍も変わってくる。

 例えば、ユニクロの梳毛イタリアン・メリノウールの定価は1500円以下だ。これが、日本のSCで売られている商品になると、8-9000円となりもはやその差は歴然としている。さらに最近の若者はアクリルとウールの違いさえわからないので、アクリルという超低価格繊維をつかって5000円でSC売られている商品と、ユニクロのウール100%の商品を比較するのだ。

  この圧倒的コスパと、成熟経済下における「装い、服のポジション」が、ユニクロの「ライフウエア」とマッチしているのである。だから、日本の中価格帯アパレルが、ユニクロからお客を奪われるのを本気で防ごうと思えば、ユニクロよりもさらに流通を短縮化した「D2C戦略」しかない。商社を外し、工場ダイレクト出荷で、プロパー消化率80%を前提に原価率を50%近くまで引き上げるのである。ここまでしなければ勝負にならない。だが、この戦略は手順を間違えると一気に会社を破綻させるほどの劇薬であるため、なかなか実行に移すことはできないだろう。これが、ユニクロだけが一人プレイができる構造的背景だ。

 

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記事執筆者

河合 拓 / 株式会社FRI & Company ltd.. 代表

株式会社FRI & Company ltd..代表 Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)。The longreachgroup(投資ファンド)のマネジメントアドバイザを経て、最近はスタートアップ企業のIPO支援、DX戦略などアパレル産業以外に業務は拡大。会社のヴィジョンは小さな総合病院

著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「生き残るアパレル死ぬアパレル」「知らなきゃいけないアパレルの話」。メディア出演:「クローズアップ現代」「ABEMA TV」「海外向け衛星放送Bizbuzz Japan」「テレビ広島」「NHKニュース」。経済産業省有識者会議に出席し産業政策を提言。デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言

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